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漫画家まどの一哉ブログ

   
読書
「ブロディーの報告書」
ホルヘ・ルイス・ボルヘス 作

再読。ボルヘスはなにが苦手かと言うと、解説にもあったとおりその再話者・注解者としての話法であって、お話の中に浸り切ってしまいたい読者としてはその楽しさがないところだ。いわゆる衒学的な手触りはこの方法ならではのものかもしれないが、快楽の種類が自分の好みとはちょっと違う。

この短編集はそういった「伝奇集」や「不死の人」と違って、オーソドックスな小説の方法で書かれていて、南米の荒くれ者・無法者のやらかしをいろいろと描いて愉快だ。ただそれでもどこかで話者ボルヘスが語っていますという、一歩引いたような感覚を感じてしまうが、これはたぶん自分の思い込みであろう。

「マルコ福音書」という作品が恐ろしいオハナシ。

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読書
「ラテンアメリカ怪談集」
J・L・ボルヘス 他

怪談にも定番の設定あって、家庭教師が担当したのは実は恐ろしい子供、古の中国皇帝の座をめぐる魔術物語、初めて入った古書店で出会う魔法の書、など何度か目にした気がするが、いくらでも面白いものはある。

ライネス「吸血鬼」:ホラー映画の主役に選ばれた古い屋敷に住む貴族の末裔が、じつはほんとの吸血鬼だという話で、笑えるように書いてはいないが、全体を一つのコメディとして読んでもさしつかえないと思う。
カサレス「大空の陰謀」:カサレスは以前「脱獄計画」という作品を面白く読んだが、この作品もそれと同じく幻想的な設定ながら、話を追うおもしろさはエンターテイメントのノリがある。これは並行宇宙を行ったり来たりするお話。
インベル「魔法の書」:途切れなく描かれた意味をなさないアルファベットの羅列が、ふとした糸口を見つけると意味を追って読める。つい油断して目を離すとまた意味を失ってしまう。これは新鮮な着想。

コルタサルはいつもそんなには感じない。それよりボルヘスはどうしても文を追う楽しさがなくて苦手。

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読書
「桜の園」
チェーホフ 作

故郷の邸宅と桜の園を手放すことになった没落貴族夫人を主人公に、娘達と弟や使用人・知人達との最後の日を描いた名作。

主人公のラネーフスカヤ夫人が故郷の家に帰ってきてから、翌日買い取られた家を手放して旅立つまでが一直線に進む。ストーリー上の作為的な変化がないのだが、これも無為無策の夫人とその弟を描く上では納得できる展開だ。友人の実業家が早急に土地を別荘用に貸して運用することを勧めるも、ぼんやりとしたまま本気で手を打とうとしない。この現実的な実業家とのんきな浮世離れした貴族達とのやりとりが迫真のおもしろさ。
夫人「じゃ、どうすればよろしいの?ちゃんと教えてくださいな」
実業家「毎日毎日お教えしてるじゃないですか。それも同じことを…」
夫人「でも別荘に別荘族なんて、低級なのよねえ、悪いけど…」
この辺りの会話がさもありなんだよ。貴族に会ったことないけど。

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読書
「人生の隣」
安岡章太郎 著

「人生の隣」というタイトルは、広津和郎が「散文芸術の位置」という文章で詩、美術、音楽といった分野に比べたときの文学の位置付けたところからとったらしい。日本文学の作家・作品について語ったエッセイ集。

安岡章太郎の文章は、これだという結論にたどり着いていないところで終わっているものが多い気がするがそこが気持ちが良い。なんとなしに気になった、思いついた取っかかりのようなものを、そのまま文章にできるのも才能のうちだなと思う。
極端に言えば小説なんてなんだかわからないもやもやしたところまで踏み込んで、何が書かれたのか書いた本人にも確信が持てないところまで描かれてないと、説明されただけになってしまって面白くない。
本格的な文芸評論はまた違うのかもしれないが、エッセイの面白さもその辺りにあるのではないか。これは私が安岡の文章が心地よくて、するすると読んでしまうからそう思うのかもしれないし、心地よさの秘密がそこにあるのかもしれない。

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読書
「夜の来訪者」
ブリーストリー 作

家族のみでなごやかに行われていた婚約パーティ。そこへ突然ひとりの見知らぬ警部が来訪し、ある若い女性の自死事件を告げる。そしてしだいに家族全員がその自殺の要因になっていた事実が解き明かされてゆく。

父親から始まって一人また一人と、家族のそれぞれが自殺した女性にかつてしていた仕打ちが明らかになってゆくところはまさにミステリーの謎解きのようだ。しかしその展開があまりにも作為的で無駄がないために、ストーリーを仕掛けている感じがわかっていやになってしまう。短い舞台劇だから仕方がないのかもしれないが…。後半どんでんがえしが始まってからは、トリックを解き明かす面白さがあってついつい読まされてしまった。

人は一人で生きているのではなく、社会の中で助け合っていかなければならないという正義感はまあよいとしても、そのテーマ自体にただちに感動するようにはできていない。そこはトリックストーリーの役どころだろうが、いずれにせよ味わうとか鑑賞するといった楽しみはなかった。

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読書
「戦後文学放浪記」
安岡章太郎 著

安岡章太郎が文壇デビューしてからの各作品について、そのなりたちと当時の生活をふりかえった自伝的エッセイ。
世代論で作家をくくっていくことには疑問を感じるとしても、戦中派というくくりは明らかに特徴的なものがある。戦争で死ぬ以外の道を考えていなかった青年が、敗戦により突然未来へ放り出されてぼうぜんとしているという共通体験を持つ。
しかし「第三の新人」という呼ばれ方をしていた安岡・吉行淳之介・庄野潤三・小島信夫・遠藤周作などの世代は、比べれば少し上の島尾敏雄・椎名麟三・梅崎春生らとは違うのかもしれないが、今になってみるとそれぞれ各作家の個性の違いのほうが大きいと感じる。そして誰しも自分達がそれまでの世代と比べて中途半端な、確固とした立場を持てない世代だと自覚するのは、現在でも同じではないか。

戦争責任の亡霊といった大きなものでなく、自分の心の中に響いてくるもっと卑小な些細なもの。母親が死んだ時、病室の窓から干上がった海に突き立つ何本ものの黒々とした棒杙を見た衝撃。自分にとってはけっして卑小でない何かを、欠落を埋めるように格闘した創作活動は、はたして結果へたどりつけたのだろうか。「海辺の光景」をめぐる回想が胸を打つ。

ところで安岡のややシュールレアリスティックな初期短編も自分は好きであります。

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読書
「ヴェニスの商人」
シェイクスピア 作

元となったストーリーは1590年代のイギリスでは知られているものらしいが、そこはシェイクスピアの腕で俄然おもしろくなっているとのこと。
詩的で大仰な言い回しが多く、自然主義以降のリアリズム文芸に親しんだ経験からするとやや違和感はあるが、喋っている内容は実に人間くさくて愉快だ。なんといってもシャイロックがひときわ味がある役どころ。他に道化役のランスロットがいい。
その他青年たちはみな金も名声もあり、まことに善人で勇気と誠実さを併せ持つ言わば欠点のない美男美女で、やはり芝居の上での人物としか思えない。比べてシャイロックの喜怒哀楽は悪人ではあるにしても素直に納得がいく。しかしいくらユダヤ人だからといって、今から見るとあんまりな扱いだよ。

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読書
「プロテスタンティズム」
深井智朗 著(中公新書)

1517年のマルチン・ルターの問題定義からちょうど500年。キリスト教をリフォームする目的で現れたプロテスタンティズムはその後多様な変革を続けながら世界中に広がった。現代の保守思想とリベラリズムの源流ともなるその歴史を解説。

ルター曰く、道徳的に正しい人が救われて天国に行けるのであれば、これは普通の人間には不可能である。不道徳な行いによって神との関係が壊れてしまったとしても、人間の側からこれを修復することはできない。できることはただひたすら我々の代わりに犠牲となったキリストを信仰することであり、修行や努力に意味はなく、ただ神の救いを待つことしかできない。
これこそかつて私を唖然とさせ、その後長年頭の中でくすぶり続けていた宗教思想だ。どうやって安心を得るのだろう。厳しすぎるよ。しかしこの場合神は常に個人対応で一人一人のすぐそばにいるのだと思われる。

ルターやカルヴァンから始まったプロテスタンティズムが、なぜ資本主義の源流となったのか?バプテスト他その後の洗礼主義によるさらなる改革を「新プロテスタンティズム」それ以前を「古プロテスタンティズム」と呼び、それぞれを公立小学校と私立小学校に例えた解説がじつにわかりやすい。なるほどこれならマックス・ヴェーバーのいうことも納得出来る。そして現在のドイツ社会とアメリカ社会の根底にあるものの違いが学習できるのだった。

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読書
「在日コリアンの歴史を歩く」
在日コリアン青年連合(KEY) 編著

大阪猪飼野・京都東九条・神戸長田・山口下関など、在日コリアンが多く暮らす街を写真とともに紹介。また在日2世(70~80代)を中心に戦後から今日までの苦難の個人史を聞き取り。そして残された家族写真をもとに振り返るファミリーヒストリー数編。その他在日コリアン問題に関する簡単なキーワードと150年史も付いたムックのような書籍。単独の著者による在日コリアン論は多くあろうが、こういう編集は珍しいので買ってみた。

第1章の在日コリアンが暮らす街のレポートが興味深く、知らなかった土地もあるのでもっとたくさん読みたかったが、思いのほかページが少なかった。第2章の個人史込みで街紹介だけで一冊にしてもらってもよかったかな。関西でも岸和田の紡績工場や奈良天理の柳本飛行場のことなど知らないことも多い。

個人史・家族史で語られる運動史はまことに複雑な変遷があり、自分のうっすらとした知識ではとうてい追いつけないが、それでも学習の一助とはなったと思う。

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読書
「マクベス」
シェイクスピア 作

手持ちのものを再読してみたがおもしろかった。
比較的短い作品なのか、思ったより簡単にできている。3人の魔女の予言にそそのかされて、妻と協力して密かに王を殺害。自分がその地位に取って代わるわけだが、その後皆の信頼を集めて王政をほしいままにするのかと思いきや、あっというまに殺人がバレて転落してしまう。この展開が早い。典型的な起承転結だがその配分がちょうどよい。

怪しまれる原因となった亡霊の幻視や手に付いた血の錯覚などは、その後の小説や漫画などに何度も流用されているが、そもそもこの作品が鏑矢か。と思ったがそうでもなく、セネカその他いろいろな下敷きがあるらしい。
「女の腹から生まれた者には殺されない」という謎の予言でひっぱって行くのも、効果的な一工夫だと感じた。

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