漫画家まどの一哉ブログ
「砕かれた四月」 イスマイル・カダレ
「砕かれた四月」
イスマイル・カダレ
(白水Uブックス・平岡敦 訳)
アルバニア高地地方。名誉ある血の掟に従って行われる報復の連鎖。その当事者となり死を待つ青年と、この土地を訪れた作家夫婦の困惑。現代によみがえる神話的叙事詩。
殺された者の一族は報復として、殺した者を殺さねばならない。報復こそが血の掟であり名誉である。都市部とは隔絶した高地の掟に従って復讐を果たし、今度は逆に狙われる身となった青年。そしてこの地域の風習を見るために訪れた作家夫婦。追われる身となった者が一時的に身を隠す塔が村中に立つ。
紛れもなく散文なのだが、ありえない世界を描いて現実から解き離れたような詩的興奮がある。不思議なことがなにも起こらないのにシュールレアリズムのような味わいがあるのも、奇怪な塔が村中にあるためかもしれない。この村に見物に来た作家夫婦も落ち着かない様子で、なにか不穏なまま物語は進む。
血の管理官のくだりになってようやくやや現実感が出てくる。血の奪還(報復)を行なった者は、ただちに税を納めねばならない。この税収でこの村の経済はなりたっているのだ。近年血の奪還が減って税収は次第に減少し、血の管理官は大いに悩むのだが、このシステムを描くことによって話がリアルになった。
作家の新妻と報復を恐れて塔への道をゆく青年は、ただ一眼会っただけで電撃的な運命を感じ、新妻は心ここに在らずといった具合で旅を続ける。この展開はあきらかに無謀で説得力はないが、この作品では理由づけなどなくてもいっさい構わない気がする。現代アルバニア文学を超えて世界的異色作と思う。
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