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漫画家まどの一哉ブログ

   
読書
「異説ガルガンチュア物語」
フランソワ・ラブレー 原作
谷口江里也 作
ギュスターヴ・ドレ 絵
(未知谷)

15世紀の作家ラブレーが描いた楽園王国の王子大巨人ガルガンチュアの風刺と諧謔に満ちた物語。のちに19世紀の画家ドレが258点もの挿画をつけて絵物語として出版。そして現代、ドレの絵をもとに谷口江里也氏が物語を再構成したものが本書である。

なんと言ってもドレの描いた緻密且つ雄大な版画作品がすべてのページに掲載され圧倒的に豪華な本の出来栄えである。本来ラブレーの原作は風刺に満ちたもので糞尿譚などやりたいほうだいだったそうだが、ドレの趣味はもっと美麗でロマンあふれるもので、諧謔味は緩和されている。それでも人物に寄った絵ではドーミエのような風刺画タッチのものもあり、こちらのほうが個人的には好みだ。

お話の方もドレの趣味に沿ったのか上品で真面目な仕上がりとなっており、そこはもう少し笑いの要素が欲しかった気がする。最終章でこれからの平和な世の中を作るためにガルガンチュアが考えた結論など、大いに真面目で青少年のためにもぴったりだ。もとより子供から大人まで楽しめる文体と内容で、ドレの絵を味わいながら戦争の愚かさについてあらためて思い知るのもよいと思う。

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読書
「夢の軌跡」アンドレ・ブルトン 編
(国文社)

1970年刊行のセリ・シュルレアリスム2 
「アンドレ・ブルトン収集によるテクストと挿画からなる”夢”にささげられた手帖」

夢にまつわるあれこれをシュルレアリスム詩やフロイト学説研究家のエッセイ、それにシュルレアリスムイラストを交えてたいへん楽しい、お菓子で言えばバラエティパックのような本になっている。

ブルトンはじめこの時代のシュルレアリストたちのフロイトの夢分析に対する信奉はたいへん厚いものがあり、いっぽうシュルレアリストたちの大好きな神秘的イメージは少しも遠慮することなく、まるで神秘主義も含めてまるごと精神分析学で裏付けたような不思議な感覚だ。

自分はシュルレアリスムが好きとは言っても特別詳しいわけではないので詩人たちは知らない名前ばかりだが、ブルトンのチョイスにはデューラーやプーシキン、パラケルススまで入っている。イラストはエルンスト、タンギー、マグリット、ダリ、キリコなど有名どころを交えて豊富。やはりブルトンは作家ではあるが同時に編集者であり、蒐集家であり、美食家だな。

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読書
「シモーヌ」vol.1
特集:シモーヌ・ド・ボーヴォワール
(現代書館)

「雑誌感覚で読めるフェミニズム入門ブック」創刊号。
巻頭特集は70年後の「第二の性」ということでボーヴォワールの紹介だが、とっても面白い。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名なフレーズとともに生まれたジェンダー概念。入門書ということからか論考として深く切り込んでいくというより、ボーヴォワールその人の人生・エピソードを交えて紹介。歴史的な読み物としても面白く、著作は当然古典であり魅力的だ。「第二の性」以外にも自伝的な小説やエッセイがたくさんあり、すべては現在絶版となっているものの機会があれば触れてみるのもいいかもしれない。

冊子後半は現在さまざまな局面で活動するジャーナリストや研究者のエッセイが並ぶがどれもごく短いもの。ほんとうのところは語り尽くせない大問題が含まれているところだが、これも入門ブックならではの近づきやすさにとどめているのかもしれない。手に取りやすい一冊。

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読書
「ジュリアス・シーザー」シェイクスピア 作
(新潮文庫)

いつもどおり登場人物はやたら多いが、しっかり無駄なく作り込まれた印象がある。短い作品ということもあってか脱線もなく、よく知られた歴史的事実通りに順を追って進む。セリフはやや堅苦しい真面目さがあるものの、文庫解説にもあるように、個々の人物が歴史の進行役だけではなく人間個人としてみずみずしく立ちあがってくる。

物語の要はシーザー暗殺の後、ブルータスへの聴衆の支持を、演壇で敵役アントーニスがいかに翻すかである。ブルータスの誠心あふれる演説に心酔した民衆を、ブルータスを持ち上げながら一気に殺されたシーザーへの同情へ、ブルータスへの憎悪へと引きずり込んで行くアントーニスの話術。その手腕があればこそこの劇作は成立するというもので、そこが読みどころだった。

手のひらを返した民衆が、ブルータス憎しのあまり、徒党のメンバーと名前が同じというだけで別人をもかまわず殺してしまうくだりなど、いつの時代も変わらぬ興奮した大衆のおそろしさ。
決戦を前にした陣地内でのブルータスとキャシアスとの感情的な言い争いも、たんなる歴史読み物ではなく多面的に人間を描いていてよかった。

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読書
「偉大なる時のモザイク」
カルミネ・アバーテ 作
(未知谷)

アルバニア系住民が多く暮らすイタリア半島長靴の底。500年前オスマントルコの迫害を逃れてアルバニアからパパス(聖職者)の指導のもとにアドリア海を越えた人々がいた。村を作り自分たちの教会を立てることを目指す。
はるか時を超えて現代、パパスの末裔アントニオは鎖国独裁政権となったアルバニアから訪れた興行団の踊り子に魅せられ、フィアンセを捨ててまで彼女を手に入れようと奔走する。

過去と現代を行ったり来たり、大いなる時間そのものが主人公のような物語。ふだん意識しないがイタリアといってもアドリア海を挟んですぐ目の前にバルカンの国々がある。
南イタリアに渡った最初のパパスや2代目・3代目パパスたちの苦労話は空想の羽をのばして書かれた歴史物語。アルバニアに戻ってオスマントルコとの戦いに殉じようとする者たちもあり、ロマンあふれる面白さだ。

翻って現代の村人たちのいざこざは、大いにあるだろう村社会のリアリズム。なかでもアントニオ・ダミスという男は融通の利かない堅物の役人でありながら女に関しては野放図な、小説的にはたいへん魅力的なキャラクターで、恨みを持つ村人に命を狙われながらも、国を捨てて独裁政権下のアルバニアに女を追いかけて行くところなど目が離せない。

親の世代、子の世代でそれぞれの物語が受け継がれてゆく。天才モザイクタイル工芸家の工房に集う若者たち。彼らがこの工芸家からモザイク壁画作品の主題を聞くかたちで古い移民たちの歴史が語られて行く。
大学を卒業したばかりの青年ミケーレが全ての物語の進行役だが、彼が仲間と大いに飲んでハメを外したり、卒業パーティーを開いたり、村へやってきたアントニオの娘に恋をしたりと、青春小説・教養小説のような部分が何故かかなり多くあって(個人的にはまったく興味が持てないのだが)、そのせいでこの作品は劇的な社会小説というより、うんと平穏な日常世界の味わいを醸し出している。

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読書
「白鳥古丹(カムイコタン)」吉田一穂傑作選
(幻戯書房)

帯文に「極北に屹立した絶対詩人」とあるが、まさにそのとおり。吉田一穂の随想集。
私はけっして詩魂のあるものではないが、なんとなくその硬質な風情に捨て置かれないものを感じていた吉田一穂。あらためてエッセイを読んでみたが、さすがにただごとではない表現で理解できないまでも脳が興奮した。随想だからといって力を抜くことがない。

意外だったのはこれだけの博識と縦横無尽な言葉の使い手でありながら、一穂が大自然を足場とする人だったことで、北海道の津軽海峡を臨む網元の出自。魚を取り畑を耕し牛を飼って生きることができる人。生涯を東京での文筆生活で明け暮れたにせよ、肉体を使って自然と共に生きるのが人間の本来的なあり方だと体で分かっている人だった。
芥川の自死についても、生活することへの未熟な認識と頭でっかちな人生を批判する。

総じて骨太の、大地に根付いた腹のすわった詩風である。私にはこれくらいしか言えない。

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読書
「電信柱と妙な男」小川未明 作
(平凡社ライブラリー)

童話・小説・エッセイなど膨大な作品を残した小川未明。同じ東雅夫編のちくま文庫文豪怪談傑作選「小川未明集」以来ひさしぶりに読む。
本書は『妖魔たち』『娘たち』『少年たち』『北辺の人々』『受難者たち』『マレビトたち』という分類でまとめていて、単に児童文学にとどまらず、童話と判然とした違いのつかない耽美幻想小説におおいに魅力がある。

表題作「電信柱と妙な男」は『妖魔たち』に含まれるが、夜中にひっそり散歩する電信柱というなんともユーモラスな綺想小説であり、妖魔な雰囲気とは程遠いおもしろさ。
『娘たち』『少年たち』となるとさみしい少年少女の周りに現れる亡くなった肉親のたましいといった、ヒューマニスティックな児童文学本流の話が多く、悪くはないがひとつのパターンを感じてしまう。

それに較べると『北辺の人々』『受難者たち』『マレビトたち』にみられる自由で絶望的な幻想文学の方に魅かれる。
イメージ本位の描写でかならずしも読みやすくはないが、暗く悲しく絶望的な話が多く、未明のペシミスティックな世界観をうかがい知ることができる。死と孤独と衰亡が基調である。

「老婆」:下宿先の老婆はつねに変わらぬ姿勢で火鉢の傍に座り込んでいて身動きもしない。ある日ふと病院のそばで見かけるがいつのまにか帰っている。この不思議な老婆の正体はしれないままである。
「櫛」:近所の女房連のなかで、鍋をかぶっているような重々しい髪の黒衣の女だけが仲間外れである。なんだかわからない呪文を吐いて櫛を投げつける。
このようになんだかわからぬままに放って置かれたような作品がおもしろい。

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読書
「密告者」
フアン・ガブリエル・バスケス 作
(作品社)

ナチス台頭の時代。多くのドイツ人が難を逃れて南米コロンビアに移住していた。大戦が始まるとアメリカの指示によりスパイと疑わしきドイツ人はブラックリストに挙げられ収容されることに。主人公(語り手)の父は法律家であり大学教授でもある名士であったが、かつて密かに友人の父をスパイ容疑で当局に密告していた。隠された事実を巡って繙かれる残された者たちの物語。

タイトルと長さからしてストーリー本位な構成を想像したがそんなことはなく、時間を錯綜させて登場人物に語らせていく組立である。それでも充分スリリングな味わいがある。
この長さはほとんどが語り口調で書かれているせいで、地の文からして一人称で心のつぶやきを追いかけたもの。その他は会話、もしくは1人語りで雑談的な部分も含めてリアルに表現しているので、いきおい長くなる。しかし冗漫な印象は全くなく、マジック抜きのリアリズムで読み易い。

ところで肝心の密告はどこでどのように行われたか。その内容はどんなものか。そして最も気になる、なぜ父親は友人家族を売るようなまねをしたのか。これらの謎は謎のままなのである。

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読書
「恋する潜水艦」ピエール・マッコルラン 作
(国書刊行会)

海洋冒険小説3編収録。
「恋する潜水艦」:機械との婚姻が行われる世界。意思を持つ潜水艦713号艦長の航海日誌。小説というよりモダニズム散文詩のような、愉快な挿絵満載で楽しめるナンセンス文芸。「だが、時刻のくるった太陽の光でいささかしぼんだ《神われらと共にあれ》像が神殿におさまった時、あたかもとうきびの穂のように市民の手という手はすべて天をさし、町の声という声はくるったようにAZ.O2! AZ.O2!*と唱和した。(*すべての人間に理解可能な熱狂の化学式)」これだもの!

「海賊の唄」:悠々自適の独身生活を謳歌しながら海賊物語に憧れる男。その財産に目をつけた小悪党の計略にかかって、偽の地図をもとに宝物を探しにカリブ海へ出航するが…。
金に目がくらんだ男たちの正義のない冒険小説。ストーリ本位の作品でとくに味わうところもなく、読んでいて殺伐とするところはあるが、話自体はどうやって終わるのか気になった。

「金星号航海記」:海賊船金星号の冒険。大きなストーリーのあるものではなく、いろんなエピソードを次々と紹介する組立て。死体が生きている話以外は不思議なことは起きないのに、作品世界に巻き込まれてしまって陶然とする幻想文学のような味わい。もちろんカリブの海賊自体が非日常とはいえ、これも筆力というものか。夢の中にいるようだ。

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読書
「統合失調症」村井俊哉 著
(岩波新書)

帯及び告知惹句に「青年期を中心に100人に1人近くが患う」「本人は病気と認めないことがある」「幻覚や妄想が生じる」とあり、これはもしかすると自分が10代後半から20代前半に陥った病状を解明する手がかりになるのではないかと思い読んだ。

自分の場合は精神的に未発達のまま高校に入学したためのショックとパニック(いわゆる高1ギャップ?)。数年に及ぶショック状態。逃避的誇大妄想と論理的思考の破綻であるから、ここで掲げられている「自分の考えが他人に知れ渡っている」などの妄想とはちょっと趣きが違う。ただ論理的思考を失うのは同じかもしれない。
自分がもっとも興味を持ったのは「病識がない」という状態で、本人は病気だと思っていない。これは自分もそうで、それゆえ医者に行かずに数年かけた結果社会復帰したが、そのときは妄想が少し解けたり、世界に対する心の壁がやや薄くなって、「あれ?今まで少し異常だったのかな?」と気づくことの段階的繰り返しであった。

自分はこれまでいわゆる神経症というものの一種だと思っていたが、神経症という言い方は近年変わってきているらしい。分類をみると「心的外傷およびストレス因関連障害群」というのが近い気がするが、これは一般にはPTSDとして話題にされるので違うかもしれない。
社会に対して常に緊張して身構えているので、ふだんの対人交流もなく暗黒的な心の状態がベースとなっていたが、「統合失調症」の場合ベースとなる心のトーンはどうなのだろうか。この著書にはそのあたりの視点は見えなかった。

「統合失調症」について恐ろしい病気だはないかという世間の誤解を解き、社会全体でフォローしていかねばならないことがよくわかる。著者の医師としての誠実さを感じた。

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