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漫画家まどの一哉ブログ

   
読書
「夜の来訪者」
ブリーストリー 作

家族のみでなごやかに行われていた婚約パーティ。そこへ突然ひとりの見知らぬ警部が来訪し、ある若い女性の自死事件を告げる。そしてしだいに家族全員がその自殺の要因になっていた事実が解き明かされてゆく。

父親から始まって一人また一人と、家族のそれぞれが自殺した女性にかつてしていた仕打ちが明らかになってゆくところはまさにミステリーの謎解きのようだ。しかしその展開があまりにも作為的で無駄がないために、ストーリーを仕掛けている感じがわかっていやになってしまう。短い舞台劇だから仕方がないのかもしれないが…。後半どんでんがえしが始まってからは、トリックを解き明かす面白さがあってついつい読まされてしまった。

人は一人で生きているのではなく、社会の中で助け合っていかなければならないという正義感はまあよいとしても、そのテーマ自体にただちに感動するようにはできていない。そこはトリックストーリーの役どころだろうが、いずれにせよ味わうとか鑑賞するといった楽しみはなかった。

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読書
「戦後文学放浪記」
安岡章太郎 著

安岡章太郎が文壇デビューしてからの各作品について、そのなりたちと当時の生活をふりかえった自伝的エッセイ。
世代論で作家をくくっていくことには疑問を感じるとしても、戦中派というくくりは明らかに特徴的なものがある。戦争で死ぬ以外の道を考えていなかった青年が、敗戦により突然未来へ放り出されてぼうぜんとしているという共通体験を持つ。
しかし「第三の新人」という呼ばれ方をしていた安岡・吉行淳之介・庄野潤三・小島信夫・遠藤周作などの世代は、比べれば少し上の島尾敏雄・椎名麟三・梅崎春生らとは違うのかもしれないが、今になってみるとそれぞれ各作家の個性の違いのほうが大きいと感じる。そして誰しも自分達がそれまでの世代と比べて中途半端な、確固とした立場を持てない世代だと自覚するのは、現在でも同じではないか。

戦争責任の亡霊といった大きなものでなく、自分の心の中に響いてくるもっと卑小な些細なもの。母親が死んだ時、病室の窓から干上がった海に突き立つ何本ものの黒々とした棒杙を見た衝撃。自分にとってはけっして卑小でない何かを、欠落を埋めるように格闘した創作活動は、はたして結果へたどりつけたのだろうか。「海辺の光景」をめぐる回想が胸を打つ。

ところで安岡のややシュールレアリスティックな初期短編も自分は好きであります。

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読書
「ヴェニスの商人」
シェイクスピア 作

元となったストーリーは1590年代のイギリスでは知られているものらしいが、そこはシェイクスピアの腕で俄然おもしろくなっているとのこと。
詩的で大仰な言い回しが多く、自然主義以降のリアリズム文芸に親しんだ経験からするとやや違和感はあるが、喋っている内容は実に人間くさくて愉快だ。なんといってもシャイロックがひときわ味がある役どころ。他に道化役のランスロットがいい。
その他青年たちはみな金も名声もあり、まことに善人で勇気と誠実さを併せ持つ言わば欠点のない美男美女で、やはり芝居の上での人物としか思えない。比べてシャイロックの喜怒哀楽は悪人ではあるにしても素直に納得がいく。しかしいくらユダヤ人だからといって、今から見るとあんまりな扱いだよ。

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読書
「プロテスタンティズム」
深井智朗 著(中公新書)

1517年のマルチン・ルターの問題定義からちょうど500年。キリスト教をリフォームする目的で現れたプロテスタンティズムはその後多様な変革を続けながら世界中に広がった。現代の保守思想とリベラリズムの源流ともなるその歴史を解説。

ルター曰く、道徳的に正しい人が救われて天国に行けるのであれば、これは普通の人間には不可能である。不道徳な行いによって神との関係が壊れてしまったとしても、人間の側からこれを修復することはできない。できることはただひたすら我々の代わりに犠牲となったキリストを信仰することであり、修行や努力に意味はなく、ただ神の救いを待つことしかできない。
これこそかつて私を唖然とさせ、その後長年頭の中でくすぶり続けていた宗教思想だ。どうやって安心を得るのだろう。厳しすぎるよ。しかしこの場合神は常に個人対応で一人一人のすぐそばにいるのだと思われる。

ルターやカルヴァンから始まったプロテスタンティズムが、なぜ資本主義の源流となったのか?バプテスト他その後の洗礼主義によるさらなる改革を「新プロテスタンティズム」それ以前を「古プロテスタンティズム」と呼び、それぞれを公立小学校と私立小学校に例えた解説がじつにわかりやすい。なるほどこれならマックス・ヴェーバーのいうことも納得出来る。そして現在のドイツ社会とアメリカ社会の根底にあるものの違いが学習できるのだった。

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読書
「在日コリアンの歴史を歩く」
在日コリアン青年連合(KEY) 編著

大阪猪飼野・京都東九条・神戸長田・山口下関など、在日コリアンが多く暮らす街を写真とともに紹介。また在日2世(70~80代)を中心に戦後から今日までの苦難の個人史を聞き取り。そして残された家族写真をもとに振り返るファミリーヒストリー数編。その他在日コリアン問題に関する簡単なキーワードと150年史も付いたムックのような書籍。単独の著者による在日コリアン論は多くあろうが、こういう編集は珍しいので買ってみた。

第1章の在日コリアンが暮らす街のレポートが興味深く、知らなかった土地もあるのでもっとたくさん読みたかったが、思いのほかページが少なかった。第2章の個人史込みで街紹介だけで一冊にしてもらってもよかったかな。関西でも岸和田の紡績工場や奈良天理の柳本飛行場のことなど知らないことも多い。

個人史・家族史で語られる運動史はまことに複雑な変遷があり、自分のうっすらとした知識ではとうてい追いつけないが、それでも学習の一助とはなったと思う。

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読書
「マクベス」
シェイクスピア 作

手持ちのものを再読してみたがおもしろかった。
比較的短い作品なのか、思ったより簡単にできている。3人の魔女の予言にそそのかされて、妻と協力して密かに王を殺害。自分がその地位に取って代わるわけだが、その後皆の信頼を集めて王政をほしいままにするのかと思いきや、あっというまに殺人がバレて転落してしまう。この展開が早い。典型的な起承転結だがその配分がちょうどよい。

怪しまれる原因となった亡霊の幻視や手に付いた血の錯覚などは、その後の小説や漫画などに何度も流用されているが、そもそもこの作品が鏑矢か。と思ったがそうでもなく、セネカその他いろいろな下敷きがあるらしい。
「女の腹から生まれた者には殺されない」という謎の予言でひっぱって行くのも、効果的な一工夫だと感じた。

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読書
「日本の伝統」の正体
藤井青銅 著

初詣・専業主婦・恵方巻など、古くからの伝統と思われてきたものが、案外最近始まったものであることを各方面から解説。京都ブランドや旧国名、郷土名などのイメージ戦略でいかにも伝統の品や行事らしく感じてしまうマジックが明かされる。
ただ新しいといっても明治以降近代化の過程で生まれたものも多く、たしかに古くはないが、150年も経てば伝統と言ってもべつにいいように思う。それとも伝統というとおおげさなので慣習というべきなのかもしれない。旧守的・封建的な価値観を復活させようという立場からの伝統堅持が唄われる昨今、伝統など簡単に移り変わるものだと認識することも大切だ。

案外新しかった平安神宮、近年盛んなよさこいソーラン祭りの由来、初詣は鉄道各社の戦略、昔はなかった結婚式、万願寺とうがらしは最近の野菜、アイヌ無縁の北海道土産の木彫り熊など、おもしろかった。

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読書
「ロシア革命100年の謎」
亀山郁夫×沼野充義 

1917年の革命より100年。レーニンの剛腕とソビエト連邦成立の初期から、現在のプーチンのロシアまでを文学・芸術の視点からトータルにふりかえるスケールの大きな対談集。稀代の翻訳家による対談だけに文学話のあれこれに期待したが、案外政体そのもの、そしてロシア人の国民性への言及が多かった。

スターリンが政権を掌握したしばらくまでは西欧の歴史との接点があったが、やがて強権政治が安定すると世界の歴史とのつながりはなくなって、ポストヒストリカルな世界になってしまう。
この停滞した社会主義リアリズムの時代を過ぎて、フルシチョフの雪解けの時代にやや歴史に顔を出したかと思うと、ブレジネフ体制からゴルバチョフの登場までまたもや歴史の彼方に雲隠れしてしまう。そんなソビエト社会主義の時代。報道や表現の自由はなく生活物資は粗末とはいえ、社会保障は安定しているので、一般の人々はのんびり暮らせた案外幸福な時代だったようだ。

時代が近づくにつれ知らない作家も増えるとは言え、自分の趣味からするともう少し作家のエピソードを増やして80%くらいは作家の話題でもよかった。

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読書
「蚤の親方」E.T.A.ホフマン 

主人公は実業家の息子であり、膨大な資産を持ちながら30代にして女性恐怖症、家から一歩も出ないオタク青年である。寄り添うのは顕微鏡技術者によって曲芸師とされていた蚤の親方。虫のくせして実はかなりの人間通であり、親方の持つ特殊なコンタクトレンズを主人公青年の瞳孔に貼り付けると、話し相手の本心がたちどころにわかるという仕掛けだ。
また青年をとりこにする絶世の美女はチューリップの花の中から出てきた妖精であり、恋敵の友人は薊(アザミ)の化身であるという超絶ファンタジー。かなりのアクロバットでぎりぎり成立しているが、リアリズムとの折り合いをどうつけるかが腕の見せ所だ。ちょっと失敗しているかもしれない。1822年作品。

大人のためのメルヘンというと、必ず風刺的な部分があって、そこを評価・論評されることも多く、この作品も当時のホフマンの置かれた政治的状況を多分に語っているのだが、それは後世の読者にはただちにわからないところであり、そこばかり触れなくてもよいと思う。現実を含みながら飛躍するメルヘンの楽しさがあるのだから。

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読書
「劇場」ミハイル・ブルガーコフ 作

ブルガーコフ自身の作家人生をモデルに描かれた晩年の未完作品。第二部に入ったところで終わっているが、それまでの第一部の展開だけで充分面白い。主人公は作家として一部識者の目に止まり、劇作家としても作品が採用される。そしていよいよ自作戯曲が舞台にかけられようかというところで暗礁に乗り上げるのだが、そのいきさつがカフカ的迷宮を行くようで、だが実際こんなこともあるだろうなという理不尽ななりゆき。劇場の運営もすんなり合理的にいくものではないようだ。

ブルガーコフの作品は何気ないくだりでも、そこはかとなくユーモラスで、読んでいてただでは済まない雰囲気がある。ニヤついてしまう。美しさを鑑賞するといったタイプではないが、一行一行が捨てがたい味わいがあり、とくにセリフのやり取りなどは実に人間味溢れたおかしさに満ち溢れたものだ。

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