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漫画家まどの一哉ブログ

   
読書
「冬虫夏草」梨木香歩 作

本当は「家守綺譚」の方を先に読んでおくべきその続編。ちょっと昔の日本。主人公の作家は山裾の亡き友人宅に独居し、自然の只中で様々な小動物や妖怪、亡霊と共に暮らしている。優秀なる愛犬ゴローが行方不明になり、その後を追って鈴鹿山系目指して八方街道を奥へ奥へと旅する物語。山間に暮らす素朴な人々、そして天狗・河童・龍の化身やイワナの夫婦など、人間ならざる有象無象との出会いを描いた幻夢譚である。

ややもすれば孤独な主人公と移り行く自然の中で、ある種漂泊の虚無的な雰囲気を想像してしまうが、案外そんなことはなく肯定的で実に楽しい世界となっている。人と妖怪の間を生きる連中や小動物が可愛くて愉快だ。文章も古風な趣があるが基本的には現代文で、現代人でもすんなり入って行けるようになっております。最後に愛犬ゴローに邂逅するところは感動的。

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読書
「ハイファに戻って/太陽の男たち」ガッサーン・カナファーニー 作

第二次世界大戦後パレスチナがイスラエルに占領されていった時代を戦ったアラブの代表的作家の短編集。どの短編も面白く、はっとさせる展開や物語の構成に語り部としての腕がある。もちろん容易ならざる状況が作品の土台を支えているにせよ、それだけでは傑作にはならない。やはり表題作2編が名作だ。

「太陽の男たち」:水を運ぶ空のタンクの中に隠れてクェートヘ密入国しようとする3人の男たち。仲介人に金を払っても騙されて終わってしまう危険もある中、最も危険な方法を選ぶまでの経緯を一人ずつ書きおこし、いよいよ運転手の提案に乗って焦熱地獄の中をタンク内に隠れて関門を潜り抜けようとするスリリングな展開。悲劇の後、運転手の困惑で終わるところが見事。

「ハイファに戻って」:どのようにパレスチナ住民が突然住処から追い立てられ、親子は離れ離れになり、ユダヤ人が入植し、抵抗運動が始まったか。知らなかったことが小説の形でわかる。ユダヤ人として育てられた息子に20年ぶりに会ったアラブ人の夫婦の当惑と絶望。祖国とは何か?という問いが発せられるが、簡単な答えなどない。

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読書
「ジャンキー」ウィリアム・バローズ 作

やはり「裸のランチ」を読んでから読むべきだったかな?バロウズの初期自伝的長編。ビートニクと呼ばれる界隈が比較的苦手であまりピンとこないのだが、これはしっかりとしたルポとして読める話だった。クインシーやコクトーなど自身の中毒ぶりを縷々振り返った作品はあるが、売買行為のあれやこれやまで含めて描いたものは他にあまり知らない。もちろんエンターテイメントとしては巷に溢れているだろうが、そういうキャラクター化した人間描写ではない小説であります。

なんども止めようと思って事実止めてはいても、時間が経つとまたやってしまうという繰り返し。辞める時の苦しさはある程度書かれているが、また始める時はさほどの葛藤もないのが不思議だ。全編場所を変えてのこの繰り返しで、あまり起伏もなくペターっとした構成だが、克明な事実描写につられ、また実質的に自伝なのでそんなものかと思って読んだ。

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読書
「文明は〈見えない世界〉がつくる」松井孝典 

磁力・引力・粒子など、人類が〈見えない世界〉の正体を順番に解き明かして文明を築き上げてきた過程を辿る科学史。

一般人でも楽しめるように書かれた科学エッセイはいろいろ読んだが、どうしてもアインシュタインの相対性理論までがなんとか理解できる範囲で、素粒子や不確定性原理となるとだんだん怪しくなり、超弦理論(超ひも理論)となるとやはりついていけない。これを裏付ける数学も数式を使わない形で解説されているとはいえ、自分にはお手上げである。

数多存在するらしい宇宙の中で「我々の存在する宇宙はなぜこの宇宙なのか」という問いと新たな人間原理に関しては過去にも読んだことがある。これも近年の課題であり、ホモサピエンスが外界を脳内にイメージして内部モデルをつくる能力を持ったことにより、他の類人猿から優位に立ったような話も最近耳にする。そして人間界における環境・資源・情報爆発の問題へと話は展開してゆき、この辺りはエントロピーの解説と共に繰り広げられるが、わかりやすいものである。しかしだんだん退屈になっていく。

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読書
「まっぷたつの子爵」カルヴィーノ 

著者の初期寓意小説。
トルコ軍との戦闘で被弾し、体全体がまっぷたつに分かれてしまった子爵。懸命の手術の結果右半分だけの姿となって村へ帰ってくるが、彼は良心を失った悪意の塊となっており、権威に物を言わせて悪事を働きまくるのであった。するとしばらくして、密かに治療され一命をとりとめた左半身が村へ帰還し、反対に彼は善意の塊であって、この二人の対立に村は混乱するのだった。

「不在の騎士」につながるナンセンスな設定を生かした寓意小説。悪意と善意が対照的だが、あまりにも潔癖な善意が必ずしも村人に受け入れられるとは限らないのが面白い。モラルの両面を風刺していると読めるが、解説によると当時のイタリアの内戦状態(同民族同士の殺し合い)を想定しているらしい。
いずれにしてもとっても楽しいお話。

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読書
「日本の悪霊」 高橋和巳 作

60年代、過激派として略取殺人事件を引き起こし逃亡中の男。そして特攻隊の生き残りである独身の刑事。この二人を主人公に話は本格的な刑事ドラマのように展開する。

エンターテイメントではないが、新聞が読めれば誰でも読めるわかりやすい書き方で書かれている社会派小説。実際ドラマとしてよくできていて、じっくりと話を追って行ける。ところどころやや冗長だが、そこが人間社会に対する問題意識なのだから仕方がない。

暗く虚無的だが社会に対する大きな屈折を抱いて生きている二人の設定は、通俗小説としても魅力たっぷりだが、この二人が社会に翻弄されて疑義を投げつけるありさまは、通俗を超えて確かなテーマを浮かび上がらせる。ラストへ近づくにつれ、絶対的なものであるはずの善悪でさえも、上位の者の都合によって簡単に曲げられてしまう真実が明らかになり、ああ彼らの虚無はここにあったのかと思い知る。

文庫新刊では小林坩堝の解説が出色の出来だ。

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読書
「風土記の世界」三浦佑之 著

たまには古代史もよかやろ。
713年、律令政府の命令によって各国で書かれたはずの風土記は、実際には提出まで年月をかけてうやむやになっており、現在確認されているものは「常陸国風土記」「出雲国風土記」「播磨国風土記」「豊後国風土記」「肥前国風土記」とその他逸文だけのようだ。それぞれの風土記がその成立年代によって、律令政府と「日本書紀」の影響をどれだけ受けているか、意識しているかが違う。

その風土記の中からヤマトタケルを中心とした天皇の動きや、地名由来の神話などを紹介。古代史に疎い自分でも神話は楽しく読める。特に出雲は律令政府にまつろわない固有の神話をもっている土地柄で、日本海を行き来する独自の文化圏が面白い。

「古事記」と「日本書紀」の違いについては著者独自の視点で紹介されていて、そもそもの定説とされているものを知らなくても勉強になったのかもしれない…。

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読書
「ロシア革命」破局の8か月
池田嘉郎 著

ソビエト文学読むならもうちょっとロシア革命について知らないとな。というわけで、二月革命から十月革命へ至る間の破局の8か月を学習。ガキの頃レーニン伝を読んでうっすら得た知識以外何も知らないに等しい自分だが、なるほど勝利したボリシェヴィキ目線の歴史著述ではない、崩壊した臨時政府の内幕とはこういうものだったのか。順序立てて書いてあるのは解りやすいが、正直各政党の誰それのポジションなど、ノートに書きつけながらちゃんと勉強しないとわからないな。

これだけ趣旨の違う政党が集まった連立内閣の運営がたいへんなのは仕方がない。対外的には戦争を遂行しながら、資本家及び民衆の意向にも配慮しなければならないという離れ業。結局最終的にはレーニンの強権的な手段にたどり着くが、その世界初の社会主義国が出来るまでのゴタゴタの8か月は、現代の我々の感覚でも理解出来る政治の世界だと感じた。この後のプロレタリアート独裁が想像もつかない世界。

ナボコフの父親や「蒼ざめた馬」のロープシンが出てくる。

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読書
「地獄変相奏鳴曲」大西巨人 作

第一楽章から第三楽章まではずいぶん前に書かれたものである。戦後日本人民党の細胞として、鏡山県の一地方で部落差別問題や再軍備反対の学園闘争に地道かつ誠実に取り組む主人公の姿を描く。しごく真面目でまっとうな内容であり、たとえば党中央と末端の細胞との齟齬や矛盾を取り上げるようなところはない。

第四楽章は近年(1988年)書かれたもので、作者をモデルとする夫婦が故郷鏡山県まで死ぬために出かける道行きの物語である。家を出てバスや電車を乗り継いで東京駅から新幹線に乗り組むまでの時刻表から進行状況まで綿密に書かれ、また列車が目的地に到着するまでに主人公が読書したり思い出したりした文献の内容が次々と紹介される。これが日本古典から漱石やジンメルまで多岐にわたり、めまぐるしく脳が刺激されて楽しい。

大西巨人の必要以上に堅苦しく精密で粘着質の文章は、美しい文体などとは無縁の実に奇天烈なもので、小説としてはルール違反であり邪道ではないかと思うが、大げさななりふりの割に大変わかりやすく楽しいので、やはりこれは小説なのだなあと思う。以上素人意見。

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読書
「夜と霧の隅で」北杜夫 作

「夜と霧の隅で」:第二次大戦下、敗北間近のナチスドイツ。回復不能な患者たちをガス室へ送り込む政策に翻弄される精神病院が舞台。少しでも抵抗しようと無謀な回復治療に走る医師やユダヤ女性を妻に持つ日本人患者の悲劇。
実に恐ろしい世界。味わいはあまりない文章だが、かえって冷酷な恐怖が身に迫る。唯一の日本人患者が次第に精神が混乱していき、妄想と現実の間を段階的に行きつ戻りつしているのがリアルでやりきれない。

「霊媒のいる町」:とある町で行われる心霊実験に参加できることになった二人の研究者。実験は納得できない奇妙なもの。その後先に町をうろうろして無為な時間を過ごす。
この短編集の中ではこれが一番面白かった。心霊実験にもこの町にもさして積極的な興味を示すわけでもない二人の男の、ややアンニュイな会話が絶妙。実験自体のシーンは少なく、そのシーンを挟んで町をふらついたり開店前の酒場で無理やり酒を飲んだりする、どうでも良さが心地よい。

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