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漫画家まどの一哉ブログ

   

「チョムスキー入門」生成文法の謎を解く
町田健 著
(光文社新書・2006年)

言語学を革新したチョムスキーの生成文法。わかりやすく解説するとともにその問題点を多く指摘。

言語学はおろか他分野にも広く学術的影響を与えたとされる「生成文法」について、基礎的な知識とその広がりを、主著に接することなく簡単に得たいと思い購入。しかし正真正銘言語学のみの内容だった。

文の句構造標識とその置き換えなどを丁寧に解説するとともに、その問題点・矛盾点をも逐一指摘。当然ながらほとんどのページはその展開に終始し、とくに深層構造と表層構造についてはその歴史的経緯を含めて、移動や変形の連続また連続だ。
これはノートを取りながら逐一追って行けば必ずわかる話であるが、雑学的興味で読んでいる身としてはそこまでの集中力はなかった。もちろん脳内で完璧に整理しながら読める人も多くいるだろうが、なにより例題はすべて英語なので、簡単なものといっても自分には自然な親しみはない。

全ての人間が生得的に持っている普遍文法という考え方はあまりに魅力的なのでどうしても興味をそそられるが、本書の指摘をみるとかなり怪しいものに思えてくる。どうだろうか。

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「覚える」と「わかる」
知の仕組みとその可能性
信原幸弘 著
(ちくまプリマー新書)

様々な状況における様々な理解と学習。「わかる」こととはどういう心と体の働きなのか、平易な例を豊富にあげて解説。

覚えること、わかること、状況を把握すること。あらためて言葉にするとあたりまえのことが丁寧に解説される。漢文素読から始まって身体知やクオリア。直感・アジャイル・フレーム問題。本来はもっと奥が深いであろう問題が誰にでもわかる範囲で書かれている。やはり若者向けの入門書シリーズ「ちくまプリマー新書」ならではの内容だった。人間の知覚を有効に支配する情動の仕組みなど面白かった。

「実存的感情」状況に応じて様々に変化する喜びや悲しみなどの情動や知覚。ところがそれらとは違ってその背後に一貫して存続するこころの働きがある。世界に対する根本的な親しみ。それが「実存的感情」である。実存という言葉はひさしぶりに聞いたが、まさ正鵠を射た感がある。この感覚はおおいに肯けるところがあって、ここをもっと掘り下げてもらいたかった。

徳について、正義・勇気・節制・慈愛などの倫理的徳と知的勇気・好奇心・粘り強さなどの知的徳に分けて語られている。徳は卓越した性格だが適度な中庸を保つことができるものである。種々具体例があげられてそれはそうだが、ではそもそもなぜ人間に徳のあるなしがあるのだろうか。頭の良さとは違うものだと思うが、それはやはり生来のものなのだろうか。その辺りが謎だ

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「アンダー、サンダー、テンダー」
チョン・セラン 作
(クオン・吉田凪 訳)

毎朝同じバスで高校へ通う仲間。やがて映画美術を職業にした彼女がかつてを振り返りながら、友人たちの様々な生き方を綴る現代韓国文学。

2014年の作品なのでまさに現代日本ともシンクロしている世界。大半は高校時代の話で、休みや放課後にどうやって過ごすか。なにげない日常風景が読んでいて心地よく、楽しいことが起こらなくても楽しく読める。

女子高生なので本来はかなりはしゃいでいるのかもしれないが、語り手の彼女の落ち着いた性格もあってか、大人の感覚と変わらない。当然大人になってから当時の自分たちを振り返っているので、それだけの人間観が反映されている。そこが年齢を超えた味わいとなっていて、20代でも90代でも読んで心に響く作品だと思う。

10代を共有した同い年の人間はいくつになっても分かり合えるものかもしれない。

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「死者にこそふさわしいその場所」
吉村萬壱 作
(文藝春秋)

とある街に生きる人々の日常が狂気を含んでどす黒く変質していく。しだいにすべてが繋がっていく短編連作。

巻頭話を読んだ限りでは不倫の設定で書かれた男と女の話で、トーンは暗いものの狂気をはらんだものではない。ぬるぬるとした感触だが実際あるかもしれない話である。それが2話、3話と進むうちに無人のアパートで終日ドアも窓も開け放して裸で虫にたかられる男や、精神病院で患者を演じる仕事、暴力を受けることを聖なる痛みと感謝する宗教者など、明らかに異常な事態が続出して異世界へ連れ込まれてしまう。

全編通じて人間の晴れやかで健康的な面は現れない。もちろんそれぞれ悩みは抱えているものの通常のそれではなく、なにか得体の知れない不気味な内心と挙動。作者特有のグロテスクで救いようのない世界観にのまれて読んでいると暗澹とした気分になる。以前も感じた通り自分のなかでは暗黒小説の旗手といった印象だ。恐ろしいものだ。

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短編集「買い物かご」
キンキントゥー 作
(大同生命国際文化基金 2014年)

現代ミャンマー小説。市場や路上、船、鉄道でものを売る人々。また買い物に集まる人々。貧しい中でやりくりして生きていく買い物あれこれを綴った短編集。

野菜や魚、菓子など食料品や衣類、食器、洗剤などの日用品。日常生活で必要なあらゆる細かなものが登場。売り手と買い手を挟んで切実な価格のやりとりが開始される。どの作品でも価格は具体的に表現されているので臨場感がある。

作者は大学を出て教職についているが実家の商売を手伝っていた経験もあり、売る側の内情にも詳しい。商店や市場と言っても良くて小さな小屋を利用している程度で、屋台・露天が多く、台車を引いて街を巡る売り手も登場。過酷なのは満員の列車内に商品を入れた籠を頭に乗せて乗り込む売り子の女性たちだ。

買い物だけに焦点を絞った小説というのは日本でも珍しいのではないか。これも一種の経済小説かもしれないが、描かれるのは貧しい人々、それも主に女性たちである。
面白かった箇所(ネタバレ):体の不調を白馬神(精霊)のしわざと理解している女性に診療所の受診を勧めると「西洋医学のお医者さんが白馬神をどうしてくれるというのです?」との返事。

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「百年と一日」
柴崎友香 作
(筑摩書房)

年の流れとともに変わってゆく街や人々。様々な人生の長い長い移りゆきを集めた小品集。

時代は次々と過ぎゆきて、あっという間に百年くらいは経つ。かと思えば過去へ過去へとさかのぼり、賑やかな街もかつては草はらしかない…。長くても6ページくらいの中に、平凡な人々の身に起きた出来事がさらさらと書かれて静かな余韻を残す。

描写はあくまで出来事の連鎖で内心や感情に深く切り込むことはしないが、それがかえって一人の人生や人々の営みを達観したような、落ち着いた感慨を得ることができる。神の視点というとおおげさだが、百年くらいをまとめてみれば山も谷も小さなものだ。

それにしても膨らませれば長編にでもできるような様々なドラマが、ごく短い形いくらでも続く。それだけで感心してしまう。

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「止島(とめじま)」
小川国夫 作
講談社 2008年

戦前から戦後の藤枝を舞台に、土地に生きる人々を描いた遺作短編集。

全編ほとんどをセリフの連続のみで繋いでゆく。これが晩年の小川国夫の到達した表現なのか。地の文が少ないせいか語り手の私を含めて登場人物がいきいきと立ち上がってくる印象だ。そのセリフも多くは1行くらいでごく短く簡潔。素直に作品世界に引き込まれてしまうが、ここにはおおいに作者のうまさがあると思う。

短編のうちいくつかは同じ人物たちの登場する連作で舞台は藤枝。語り手の私は土地ではわりと上層階層の少年で成績は優秀。同学年で学校へ来なくなり歌劇団へ憧れる少女。俥引きの彼女の祖父。そして家族や友人たち。
俥引きの男や少女は当然下働きの階層で、語り手の青年は彼らを使う家柄。往時の地方社会の基本的な成り立ちがよくわかるし、やがて土地を離れて東京の大学へ通う、ごく一部の優秀でめぐまれた立場の青年たちの人生もいろいろなことがある。というより当然だが作者の当時の葛藤が投影されているのだろう。

セリフで表現されるので直接的な内面の描写は少ないが、その分余計に人物が身近に感じられる。これもこの作風ならではの風味というものだ。

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「刑事と民事」
元滎太一郎 著
(幻冬舎新書)

裁判における刑事と民事の違いから始まり、裁判と法制度のしくみを日常生活の事例をもとにわかりやすく解説。

ニュースを見ていても告発や告訴、起訴、行政処分などの用語を始め、よく知らないことが多いので学習のために読んでみた。
大枠としての刑事法と民事法があって、その中に刑事なら軽犯罪法や道路交通法、民事なら商法や民法などがあるのだが、重なり合う部分もあって、理解はできるもののしっかり把握するのは簡単ではない。

刑事事件において警察の役割は被疑者(容疑者)を逮捕するところまでで、その後起訴するのは検察の仕事。民事裁判の場合は訴えるのは原告、訴えられるのは被告。この最低限の知識を間違えなければテレビドラマも楽しめるという訳だ(見ないけど)。

それくらいはわかるにしても、法的にはもうひとつ行政処分というものがあり、交通違反の反則金やインサイダー取引の課徴金などがそれらしい。ただ行政裁判で訴えられるのは行政の側というややこしい話も。

後半ではビジネスや日常生活でのトラブルを、過労死・不当解雇・医療過誤・欠陥住宅・不倫・万引き・セクハラ・パワハラなど具体例をあげて解説。これは読み物として楽しめばよい。(楽しいか?)

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「細胞の中の分子生物学」
森 和俊 著
(講談社ブルーバックス)

遺伝子と細胞の基本的な仕組みをひとつひとつ丁寧に解説。そして著者が最前線を走る「小胞体ストレス対応」について研究秘話を含めてスリリングに語る。

DNAの働きその他遺伝子のメカニズムについて、ぼんやりとは解っているつもりでもいまひとつ知らない。特にRNAの働きが知りたくて購入。耳馴染みのあるヌクレオチドの構造から始まって、塩基配列、DNA複製の仕組み、2本のDNA鎖の向きが逆になること、そして染色体からDNA二重らせんまでつながったゲノム全体の構造など、当然だが知らないことが多すぎる。
そしてこれもよく聞くメッセンジャーRNAの働きによってタンパク質が合成されていくわけだが、これまでのシステム解説でも必要最低限の内容だと思うが、確実に理解して追っていくには本気の学習態度が求められる。たいへんだ。斜め読みした。

第4章から核を超えて細胞全体の話に入り興味深い。当方はミトコンドリアってなんだっけ?という有様。それも含めてかなり詳しい内容だ。1本のひもであったタンパク質は折り畳まれて立体的な形をとるが、この形が崩れていると狂牛病などが発生する話。二重三重に用意された不具合のあるタンパク質を分解除去するしくみなどが面白かった。その流れで著者のライフワークである「小胞体ストレス対応」のしのぎを削る研究史が物語られる。

総じてシステム解説部分はどうしても平板な文章になってしまい、文を追う楽しさはない。これはこちらが素人であるせいで、当然だが仕方のないこと。

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「量子で読み解く生命・宇宙・時間」
吉田伸夫 著
(幻冬舎新書)

不確定性原理や二重スリットなど、量子にまつわる不思議なイメージを一掃してほぼ常識的な解釈へと至る手引き書。

私のような素人が素粒子まわりを紹介した科学読み物に触れると、必ずといっていいほど、量子は波であると同時に粒子であり、粒子は二重スリットのどちらかを通ったはずなのに干渉縞を作る。あるいは観測者が位置を特定しようとすると運動量が決められない。観測という行為が量子に影響を及ぼすなどの話になり、なんて量子の世界は不思議なんだという結論で煙に巻かれる感覚だった。

本書では量子が波であるという結論から出発し、まず振動の際の定在波と節の生成を説明してくれるので、何が粒子の役割をはたしているのか理解できる。波ならば二重スリットもなんの問題もない。人間が観測することで物理的原理に影響を与えることがあるわけがない。生きている猫と死んでいる猫が並立しているわけがなく、ベータ崩壊が起きた場合と起きなかった場合で他世界がどんどん生まれているわけではない。超ひも理論の行き詰まりも含めて、全て過剰に数式に依存した論理展開を追いかけた結果であって、今日のより精密な観測に従えば常識的な感覚でもって否定して良い事例であり、ようやく安心して物理の話が素人でも聞けるようになった。

追記:この種の本は分かってなくても分かったつもりで、エイヤッと読んでしまうのが良い。

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