漫画家まどの一哉ブログ
「魔の聖堂」 ピーター・アクロイド
「魔の聖堂」
ピーター・アクロイド 作
(白水Uブックス・矢野浩三郎 訳)
魔教の企みを隠したままロンドンに建てられた7つの教会。少年をいけにえとする呪いが、現代社会で犯人不明の連続殺人事件となって現出する。新進気鋭の現代英文学。
科学を信じず魔教を信仰する教会建築家ダイアー。彼を主人公とする過去の物語。そして少年の遺体が教会で発見され、事件を追う警視正ホークスムア。彼を主人公とする現代の物語。
この2つの物語が交代に登場する仕掛けになっているが、この過去と現代のつながりは、わかりやすい形では書かれていない。個々の話自体は独立して面白い。
現代劇のほうはテレビドラマを見ているように安心して読める。ただ警視正ホークスムアがしだいに呪いの謎を解き明かすわけではないので、カタルシスは得られず迷宮と挫折が待っている。エンターテイメントの痛快感とは真逆の結末。
それより過去劇。魔教を信じる教会建築家ダイアーが、日々更新される科学的知見をものともせず、ひとつひとつ呪いを仕掛けた教会を建てようとする話はかなり珍しい設定で面白い。科学の推奨者である師匠、ライバル建築家、図面を描くのに苦闘するたった一人の弟子、その他個性的な脇役が諸々登場して愉快な書き様。幻想文学のふりをしているが不思議なことは何ひとつ起こらない、世俗的な喜劇のようなものだ。
したがってこの作品は過去劇と現代劇の2つの別々の作品といった印象であります。
PR