漫画家まどの一哉ブログ
「量子で読み解く生命・宇宙・時間」 吉田伸夫
「量子で読み解く生命・宇宙・時間」
吉田伸夫 著
(幻冬舎新書)
不確定性原理や二重スリットなど、量子にまつわる不思議なイメージを一掃してほぼ常識的な解釈へと至る手引き書。
私のような素人が素粒子まわりを紹介した科学読み物に触れると、必ずといっていいほど、量子は波であると同時に粒子であり、粒子は二重スリットのどちらかを通ったはずなのに干渉縞を作る。あるいは観測者が位置を特定しようとすると運動量が決められない。観測という行為が量子に影響を及ぼすなどの話になり、なんて量子の世界は不思議なんだという結論で煙に巻かれる感覚だった。
本書では量子が波であるという結論から出発し、まず振動の際の定在波と節の生成を説明してくれるので、何が粒子の役割をはたしているのか理解できる。波ならば二重スリットもなんの問題もない。人間が観測することで物理的原理に影響を与えることがあるわけがない。生きている猫と死んでいる猫が並立しているわけがなく、ベータ崩壊が起きた場合と起きなかった場合で他世界がどんどん生まれているわけではない。超ひも理論の行き詰まりも含めて、全て過剰に数式に依存した論理展開を追いかけた結果であって、今日のより精密な観測に従えば常識的な感覚でもって否定して良い事例であり、ようやく安心して物理の話が素人でも聞けるようになった。
追記:この種の本は分かってなくても分かったつもりで、エイヤッと読んでしまうのが良い。
PR