漫画家まどの一哉ブログ
「すべての月、すべての年」 ルシア・ベルリン
「すべての月、すべての年」
ルシア・ベルリン 作
(講談社・岸本佐知子 訳)
自由奔放に生きた作者の自伝的短編集第2弾。アルコール依存症をかかえ、看護師として勤務。そして様々な孤独な人たち。
前短編集「掃除婦のための手引き書」と同じく苛烈な人生を直球で語る迫力は変わらない。
内省的な書き方ではなく具体的な行為がたっぷりと描かれる。メキシコやチリの人々が例に挙げられているように、人々との触れ合いが濃く距離が近い。情が深いというかつねに感情が人間を支配しているところを外さない感覚。要するに人間臭くて愛や欲望に遠慮がない。
奔放に生きていて恋も熱烈。へんな印象だがセックスが近い。またセックスかと思う。しかし別れるのも簡単だ。こう書くとかなり通俗的な内容に聞こえるが、体験が豊富で嘘がないこと、体感での人間把握の深さ、なにより大胆だが雑でない小説の技術の確かさによって名作を生み出している。しかしこんな感想は推測に過ぎない。
とはいっても私は愛に生きる奔放な姿より、アルコール中毒の苦しみや、底辺社会の診療所での看護師としての務め。そこにうごめく人々の救われない日常を描いた作品の方が迫るものがあってよかった。
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