漫画家まどの一哉ブログ
「私の作家評伝」 小島信夫
「私の作家評伝」
小島信夫 著
(中公文庫)
近代文学作家16人のエピソードを追って、その生き方と作品を丹念に探る唯一無二の評伝集。
文庫本にしては大部ながら、小島信夫の文章が小説を読むように面白く、ついつい読んでしまった。徳田秋声・有島武郎・岩野泡鳴など前半に登場する作家はそのほとんどが女性関係をめぐる話題で、妻および愛人の間でどのように立ち回ったか念入りに探るといった内容だ。それにしても作家だからかどうだか、こんなにも簡単に男女の関係が次々とうまれるものか不思議な気がする。
後半になると高浜虚子・田山花袋・徳冨蘆花・正岡子規・近松秋江など女性関係を離れ作家としての生き方が前面に出てくる。なかでも啄木の破天荒で破滅的なことは群を抜いていて、早世ゆえか悲しみをさそう。子規はやはり漱石に比べるとポジティブで明るい人間のようだ。そして近松秋江は小島信夫によると稀有の作家らしく、確かに文体は美しいので近々ちゃんと読んでみようと思う。
ところで正直なところ小島信夫の小説の構成・展開・表現に渡る解読が専門家すぎてよくわからない。それは私が個人的に人間心理に疎く、気持ちのやり取りがわからないためでもあるが、人物の態度や言葉使いで実はこういう人間関係の抜き差しがあったとか言われても、ああそうなのかと思うばかりである。いい調子で読んでいてもしっかり理解して読めているわけではないのだ。
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