漫画家まどの一哉ブログ
「ウンラート教授」 ハインリヒ・マン
「ウンラート教授」
ハインリヒ・マン 作
(岩波文庫・今井敦 訳)
堅物で強権的で「ウンラート(汚物)」とあだ名されるラート教授。酒場の歌姫に惚れ込んだ末に教師の地位を失い破滅の人生をおくる。
主人公ウンラート教授はあまりに古風で自尊心が高く、学生にも卒業後街で暮らす人々にも厳しい批判的な態度だ。街の人々がいくら彼をあだ名で呼んでいても、その実あたたかい気持ちで接しているその心情がわからず、常に肩を怒らせて生きている。反抗的な態度をとる学生にも教育者として善道に導こうとはせず、厳罰を食らわせて排除しようとする。人徳がないのだ。
酒場に出入りする生徒の現場を押さえようとして歌い手のローザに惚れ込んでしまうが、ローザを神の如くまつりあげ、周りのくだらぬ者を排斥しようとするのも彼ならではである。しかも彼女がしてほしいことには全く気づかない鈍感ぶり。この極端な人物を喜劇ではなくある種の悲劇の如く扱って話は進んでいく。やがて教職をクビになって彼女との住まいを街のギャンブラーの巣窟としてしまうが、その頃は彼も達観したものである。ここにおいて彼の教養が心の安定をもたらすのだ。終生、人格に丸みや優しさのない人間だが、こんな人生もあるというもの。
ハインリヒ・マンの筆致は弟のトーマス・マンと比べると確かに陽気で動きがあり、楽しく読める。
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