漫画家まどの一哉ブログ
「西への出口」 モーシン・ハミッド
「西への出口」
モーシン・ハミッド 作
(新潮クレストブックス・藤井光 訳)
内戦下の中東。しだいに広がる武装勢力の占領を避けて国外へ逃れた若い夫婦。秘密の「扉」を通って次々と国境を越える二人の心の移り行きを追う。
おそらくイスラム圏とわかるくらいで現実の国が設定されているわけではない。サイードは祈りくらいは毎日捧げる男性で、ナディアはあくまで防御用として黒いローブで全身を覆っている女性。宗教にたいしてどれくらいのスタンスでいるか大体の感触がわかる。原理主義的な勢力の支配を逃れるため難民の道を選ぶ。
「扉」とよばれるそれこそ「どこでもドア」のようなものがあって、くぐるとそこはすぐ遠い異国である。これを世界中の移民の生活を描き普遍化するための方便・トリックと思って読んでいたが、訳者あとがきでは移動中の時間は省略されていることになっている。
現代社会派小説でありながら恋愛小説でもある本作。移動して次々と変わる難民生活のなかで、二人の気持ちも揺れ動き、しだいになんとなく離れていく。多くの苦労を乗り越えてきたのにこれが結果かと思うと寂しく、自分としては嘘くさくても最後まで幸福な二人を見ていたかった。
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