漫画家まどの一哉ブログ
「ケイレブ・ウィリアムズ」 ウィリアム・ゴドウィ
「ケイレブ・ウィリアムズ」
ウィリアム・ゴドウィン 作
(白水Uブックス・岡照雄 訳)
名望厚い主人の隠された犯罪を知った秘書ケイレブ。主人の策略の結果、逆に極悪人として追われる身となってしまう。元祖ミステリー。
主人公ケイレブは有望な青年ながらも、主人の過去に対する好奇心が災いしてまんまと罠に落ちた格好だ。余計なことを調べなければよかったのだ。そもそも主人が犯罪を犯すに至る過去の事件を語るだけでこの長編の3分の1を占める。その後ようやく現在のケイレブの話となり、彼が無実ながらも世間に誤解され、恥ずべき人間の屑とされる困苦の逃亡生活が続くわけだが、これがあまりにしつこい。
けして冗漫ではないが、ケイレブが信頼を寄せる人々に次から次へと裏切られ、けだものと罵られるありさまが、読んでいて辛くやりきれない。別に殺人を犯したわけでもなく、主人の金を盗んでそれを主人のせいにしたぐらいのことでそこまで非難されることはあるまい。しかも冤罪である。だが物語は最後の最後まで極端な非難を受けるケイレブの悲哀を繰り返し、徹底して絶望を描いてゆく。
物語のバランスとしてどうかと思うが、ゴシック小説の名作にしてミステリーの原点ということならば仕方あるまい。現代の視点では語るべからず。
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