忍者ブログ

漫画家まどの一哉ブログ

   
カテゴリー「読書日記」の記事一覧
読書mixi過去日記より
「人間の条件」
アンドレ・マルロー 作


1926年、中国共産党は蒋介石率いる国民党と、国共合作の革命政府による北伐を展開していた。しかし翌年4月、上海において蒋介石は共産党に対する武力弾圧を開始。弾圧の中で懸命に党を守ろうとする中国共産党員、清・ジゾール(日中混血児)、爆弾を抱えて独り蒋介石を狙うテロリスト陳(チェン)、ロシア人カトフ、流浪のベルギー人エンメルリック。4人の若き共産党員を中心に、フランス人財閥、零落中国人商人、秘密警察長官までを交えて、争乱下に生きる人間の苦闘と敗北までを描く名作。
物語は起伏を孕み、過激な事態が連続するが、一貫して抑制された筆致で人物の内面が描写される。

かつては新潮文庫などでも普通にあったが、近年はめったに新刊で見ない世界名作文学。今回ボクの読んだのは、1962年発行の新潮社世界文學全集で、なんと10年以上前に要町の路上に、新品同様のものが捨てられていた中から、数冊拾ってきたのだった。

拍手[0回]

PR
読書(mixi過去日記より)
「思想の中の数学的構造」
山下正男 著
(ちくま学芸文庫)


もしこの内容に意味があれば、ひょっとして存在論的真実にたどりつけるかも?と、興味津々で購入した本。
内容はデカルトからレヴィ・ストロース、中国の易学まで。思想の中に数学的構造を発見して楽しむエッセー。
数式が少なく(あってもナナメ読み)、数学が苦手な自分でも、とりあえず完読できたのだが…。

例えば代数構造を代表する群論。
レヴィ・ストロース言うところの親族の基本構造、易における八卦・六十四卦における陰陽の組み合わせ、ピアジェの論理学における命題・否定命題・連言命題(~と)・選言命題(~か~)間の操作、哲学史上における機会論や弁証法と唯物論や観念論の組み合わせ。これらの操作全てにクラインの四元群という群構造が適用される。なるほどそうかもれない。
でもだからどうしたの?

例えば歴史観にも数学的モデルを対応させることができる。例えば退歩史観や進歩史観は、y=文明の高低、x=時間とするとy=ax+bという一次関数で表現できる。文明が指数関数的に上昇することになると当然y=ax2(二乗)+b(二次関数)となって、グラフはググッと上昇。さらに文明を循環史観で考えると、ボクの苦手な三角関数的モデルを適応して、y=sinx+bの波形曲線のグラフ(進歩と退歩が循環して波形を描くワケね)。これがさらに上昇型循環史観のグラフへと変化していきます。なるほど。
でもこの適応が意味あるの?

例えば按分比例、比例配分は古代ギリシャや漢代中国で、配分の正義のために適用されており、配分の正義とは階層の思想に裏付けられたものである。とかなんとか…。

例えば個の独立という思想をライプニッツのモナド(おなじみの単子論)が含むようになって、関数の概念が発達してきた。神と被造物、君主と臣民と言った関係において、神・君主=独立変数として、それらに従属して機能(function)するものとして様々な社会的関係(従属変数)が関連づけられる。これが関数の概念を育てる。

などなど、他にも思想のなかに数学概念が次々と見いだされるが、
でもそれが分かったからどうなんだ?
というのが正直な感想。まあ、数理哲学や論理学は数学の楽しみと近いところにあるが、社会科学となると数学的把握はピュアすぎる。もっと生臭いもんやから。

拍手[0回]

読書
「巡査の首」
又吉栄喜 作


沖縄本島からさらに南、日本と国交のない独立国である島国「垂下国」。珊瑚礁の島「謝名元島」で暮らす克馬と早紀の兄妹は、密かに「垂下国」へ潜入する。それはタキおばあの遺言どおり、おばあの遺骨を戦時下の「垂下国」で死んだおじいのそばに葬るためだった。
戦時中、統治者でありながら、巡査として正義と公平を貫いたと聞き伝えら得るおじい。そのおじいが垂下島の原住民「阿族」に首を切り落とされたのは、ほんとうだったのか?また、「阿族」のみが扱う興奮剤カミノキの酒とは…。

統治者である日本人から差別されて生きる琉球人。その琉球人からも蔑まれる垂下国人。さらに差別される阿族たち。てっきり現代沖縄を舞台にした小説だと思って読み始めて驚いた。しかしこのモデルとなる戦時中の舞台は台湾であり、高砂族であろう。事実は一方から見れば正義であり、一方から見れば犯罪である。同じ行為が支配であり、友愛であった。当事者は当事者の立場からすれば常に英雄であった。

けっこうゴツゴツとした文体で、ちっとも滑らかさがなく、最初は読みにくかったが、馴れるとスキがなくてスピードがでるよ。

拍手[1回]

読書
「山ン中の師見朋成雄(シミトモナルオ)」
舞城王太郎 作


福井県の田舎町に住む中学生の成雄は、オリンピック強化選手に誘われるほど足が速く、頑健だ。代々背中にびっしり毛が生える体質で、その動物的な自分を嫌い、通称モヒ寛なる山中に住む書道家中年男と相撲を取ったり、書道を習ったりして過ごしている。
ある日森の中で馬に出会い、モヒ寛が瀕死の大けがをしているのを発見してから、事件は展開。
秘密の館で繰り広げられる、女体盛りとカニバリズムの宴とは?

前半なかなかに味わいのある文体で、主人公とモヒ寛の珍妙な生活を描いておもしろく、これはこのまま純文学として終わるのかなと思っていると、後半なぞの刺客たちや、器として利用される女たちが登場してから、加速度的にエンターテイメントとなり、あっというまに読まされてしまった。それはどっちでもいいが、いずれにしても退屈しないのは文章がきれいだからではないか?と素人ながら感じた。

拍手[0回]

読書
「霊魂だけが知っている」
メアリー・ローチ 著


はやりのスピリチュアルや、かつてのニューエイジとは無縁のサイエンス・ライターによる心霊研究といったことならば、昔から大好きだ。やっぱり自分だって死後の魂の存在を全否定して平然としていられるほど強くないもの。はたして霊魂について現代科学はどこまで検証し得たか?

興味深く読んだが、ちょっともの足りなかったのは、8割がかつての歴史上の心霊研究史の愉快な逸話で占められていて、今最先端の研究については少ししか触れてなかったところ。やはり取り上げるに足る成果が少ないのだろうか。
それでも過去の心霊研究は面白かった。ちょうど電話やラジオが普及し始めた頃、人々はすわ霊界とコンタクトできると思ったようだ。そのころのエジソンやテスラのエピソードは有名なものも多いが、やっぱりおもしろい。

近年の研究で気になるのは、電磁波が充満している部屋など、電磁場にさらされると、メラトニンレベルが下がり、脳の右側頭葉に微小発作が起きて幻覚が生じやすくなること。右側頭葉の刺激によって心霊体験が生じることは、立花隆の著作でも触れられていたので、どうやらポイントらしい。
また、人間の耳に聴こえない18〜19ヘルツの超低周波を受けると、血流が下がるなど身体へ悪影響があり、視覚異常をも引き起こす。心霊スポットとは、実は超低周波スポットではないか?

臨死体験の研究も諸説あるわけだが、大脳皮質と脳幹のすべての機能が失われている時に、意識・認知・記憶が機能しているようにみえるというのは驚きだ。つまり肉体としての脳は、幻覚すら見ることができない状態なのだから、肉体外の意識体を考えざるをえないわけだ。
ヴァージニア大学病院のある手術室には、天井近くに開いたノートパソコンが上を向けて置いてある。そこに映し出されている画像は手術台の視点からは誰も見えない。つまり肉体を離れ、天井近くから自分が手術されている様子を見た者にしか見えない仕掛けになっている。この興味深い実験の結果は未だ報告されていないようである。

拍手[1回]

読書(mixi過去日記より)
「北の河」
高井有一 作
(1966年)

終戦後占領下の日本。戦火に追われて身寄りのなくなった中学生の私と母親は、亡き父方の親類を頼って東京を離れ北国で暮らし始める。不慣れな土地での暮らしに馴染めず、孤独の中に閉じこもるようになった母親は、ある日河に身を投げて死んでしまう。だんだんと精神のバランスを失って寡黙になる中、自死への思いを強めていく母親の描写が、饒舌でないだけかえって興奮をそそる。以下母親の言葉。

「そう、ただ寒いだけじゃない。私たちだけで、何も無い所で、寒さに閉じ籠められてしまうのよ。それも今年の冬ばかりじゃなく、ずっと続いて行くのよ。そんな事、想像もつきはしないわ」
「もういやになってしまったの。本当にいや。疲れてしまったのよ。特に貴方と暮らすのにね。これから先どんな事があっても、此処がどんなに住みよくたって、周りの人がどんなに親切だって、もういや。貴方と二人だけで顔つき合せて暮して、一切合財を頼られ切って、それ以外に何もない生活、こんな生活がこれ以上続けて行かれるとでも思ってるの。よかったら、貴方一人で続けなさい。そう、それで自分でいろいろと知るといいわ。そうすれば、今みたいに独りで倖せそうにしているのが、どんなに間違いか判る筈よ」
「死ぬのよ。そうすればいいじゃないの」
「もう、死ぬわよ。いいわね」

そうやって死んでしまう母親。残された中学生の私。
一読してショック。狂気を描いた小説はいろいろと読んできたが、これは迫真のリアリズム。カタルシスなし。

作者自選短編集のうち、この一編が強烈に印象に残った。
表題作など、生活の安定した作家の身辺を描いたものは、ちょっと勘弁してほしいわ。
(講談社文芸文庫「半日の放浪」)

拍手[0回]

読書
「だいにっほん、おんたこめいわく史」
笙野頼子 作



あまり現代作家を追いかけない自分だが、好きだと言える数少ない作家が笙野頼子だ。
「おんたこ教団」に征服されて、「にっほん」となってしまった国。おんたこ政権は少女をいろんなカタチで商品として海外に売り出している、おたく・ロリコン政権である。対決していた「みたこ教団」も風前の灯火である。しかもおんたこ政権は、反権力・疑似左翼で、弱く傷つきやすい僕たちという立場をとっているのだから始末が悪い。

その「おんたこ」の有様を破壊的な文体で、ギャースカギャースカ書いて、話の半分終わったところで、ピタと止まる。そして小説家笙野頼子は困難にぶちあたった。というフレーズが登場。
たしかにここまでは、頭がくらくらするわりには面白くない。ところがこのあと、小説内小説ー御霊の自動語りといった体裁をとると、俄然おもしろくなった!いかにも神様と化した霊体は、こんなふうに時代をまたいで存在するだろうなあと思う。そのあたりが妙にリアルだが、これは単に自分好みというだけかも知れない…。

で、けっきょく最後は「おんたこ」の話に戻るのだが、実はこの作品は現代の消費資本主義社会の見えない大きな敵に対する告発なのだった。でもそこは自分はどっちでもよい。

拍手[1回]

読書(mixi過去日記より)
「香水」ある人殺しの物語
パトリック・ジュースキント作

先頃公開された映画「パフューム」の原作

18世紀フランス。光を見、音を聞くが如く、あらゆる物の臭いを嗅ぎ分ける絶対的な嗅覚の持ち主グルヌイユは、孤児の身分からやがて天才香水調合師としてパリ中に名声を馳せる。だが、彼が追い求める究極の香りとは、胸も膨らみかけたばかりの処女の持つ体臭であった。女の肉体にはなんの興味もない彼は、その香りだけを永遠に手に入れるため、密かに殺人を繰り返してゆく。といったストーリー。だがミステリーにあらず。

舞台は18世紀だが、近年書かれた幻想文学の傑作。耽美風味はなく素直な文体で読みやすいクチ。
物語途中、パリを離れた主人公が山中の洞窟で何年も世捨て人としての生活を送るが、このインターバルが結構長くて、自分は一度中断してしまった。必要やったんやろか?と、今でも思う。映画は未見だが、どうなってるんやろ?
(池内紀 訳・文春文庫)

拍手[0回]

読書「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」
大江健三郎 作


作家ケンサンロウはかつての学友、今は映画プロデューサーの男に、ある国際的な映画のシナリオを依頼された。主役を張るベテラン女優サクラは、かつてケンサンロウが学生時代に見た8ミリフィルム作品、「アナベル・リイ」(ポー詩原案)のなかのアナベル役の少女である。
ケンサンロウの故郷松山に伝わる「メイスケ母」の農民運動を素材に企画は進むが、やがて隠された事実が。かつて少女時代のサクラが主演した8ミリフィルム「アナベル・リイ」には、本人が知らない間に撮られたノーカット版があり、そこで彼女は裸身であった。これは忌まわしきチャイルド・ポルノなのだろうか?

大江健三郎の紡ぎ出すイメージはむかしから、あきらかにわたしの趣味に合っているのだが、あのだらだらした粘着質の文体がどうにも読みにくくて、つかず離れずといった読書体験だった。しかしこの作品は気にならずに読めた。森の中の土地に伝わる「メイスケ母」の怨霊、白い寛衣をつけて死者を演じる少女、そしてタイトルや文中に日夏耿之介のポー訳詩。土俗的で絢爛でエロチックな世界は、やはりあの独特の文体から匂い立つ。それにしても2007年の作品だから、作者老いてますます盛んと言っていいか。

拍手[1回]

読書「未見坂」
堀江敏幸 作


とある小さな街の人々の日常を描いた短編集。
個々の話は独立しているが、ゆるく繋がっている。
いちばん良かったのは次の話。

■戸の池一丁目
家族のものが亡くなって、残された義母と二人暮らしを続ける主人公の男。義母の具合がわるくなって以来、三叉路の角地に建つ団子屋を引き継いでいる。店の裏地には、動かなくなった旧式のボンネットタイプの大型バスが放置されていて、それはむかし男が移動スーパーの商売に使っていたものだった。ある日路線バスに乗り違えてやってきた、古い知り合いの娘と幼児。男の脳裏には移動スーパーを走らせていた頃のいろいろな思い出がかけめぐるのだった。

他にもバラバラになりかけ、またなってしまって進行中の様々な家族の様子が、いろんな家業のやりくりを通して描かれる。地方都市ゆえか、酒屋や、床屋など、親の代から引き継いだ商売の設定が多い。そんな場合、子供の目線で大人たちを描くのは定番で、それが分かりやすいのだろう。個人的には子供のこころの揺らぎに興味はないが…。
それにしても静かな筆致で味わいがあり、露骨な事件性もなく、もちろん狂気も幻想性もない。正統派の日本文学とはこういうものかという気がした。

拍手[1回]

  
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア

「世の終りのためのお伽噺」
アックスストア
「洞窟ゲーム」
アックスストア 西遊
「西遊」
amazon ヨドバシ.com
アックス75号
アックスストア

祭り前

秘密諜報家
最新コメント
[08/13 筒井ヒロミ]
[02/24 おんちみどり]
[05/10 まどの]
[05/10 西野空男]
[01/19 斎藤潤一郎]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
madonokazuya
性別:
非公開
自己紹介:
漫画家
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
カウンター
カウンター
フリーエリア
Copyright ©  -- まどの一哉 「絵空事ノート」 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]