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漫画家まどの一哉ブログ

   
読書
「もうダメかも」死ぬ確率の統計学
マイケル・ブラストランド、デイヴィッド・シュピーゲルハルター 著
(みすず書房)

長き人生に巻き起こる様々なリスクは、果たして統計学的に見るとどれくらいの死ぬ確率になるのか?出産・乳児期から老後のお金まで、独自の単位で楽しく検証したエッセイ。

偶然や確率・統計学をめぐるオモシロ読本のたぐいは今までも何冊かついつい読んでしまったが、これはその中でも大部の部類。書題はおおげさだが筆致はかなり冷静なもので、読んでいて全く興奮しない。

事故や病気などで死ぬ目にあう人が一定数いてこんなに危険ということは話題にのぼるにしても、そんな目に遭わずに無事過ごす人々の方がはるかに多い。しかしそちらは話題にはならない。いくら確率の問題としてそのリスクの低さや平均値が提示されても、人はやはり感覚的にたどり着く危険な未来の印象に引きずられてしまう。

そんな不合理なリスク認識の蒙を開く仕掛けだが、個人的にはそんなにも意外な気がしなかった。危機意識自体がないのかもしれない。とくに後半はしだいに手術・検診・失業など数字で見る生活指南書みたいになってきてサラサラと読めた。面白いのはやはりギャンブルや偶然の一致など、ちょっと浮世を離れる話題。

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読書
「ヘンテコノミクス」
佐藤雅彦・菅俊一・高橋秀明 作
(マガジンハウス)

人は必ずしも経済合理主義的に行動するものではない。身近な暮らしの中の消費を題材に、行動経済学の面白さを愉快な漫画で解説。2017年初刊。

学習漫画といえばなんとなく粗製乱造的な面白くないものが多い印象があるが、これは漫画としてちゃんと面白く出来ている。とても初めて描いたとは思えない。もっとも佐藤雅彦の企画だから、経済学をお茶の間にわかりやすく届けるなんてことはおなじみの仕事かもしれない。
絵柄もオーソドックスなタッチを活かしてややレトロな雰囲気でよかった。世の中にはミニコミ含めてときどきこういった仕事があるから、学習漫画の世界も侮れない。なんでもやり尽くされたということはないのだ。

アンダーマイニング効果・極端回避性・プライミング効果などといっても、実は誰にでも思い当たる体験があり、それを描けるわけだから漫画化するには最適の素材。これを読めば行動経済学がバッチリ判った気になれるヨ。

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読書
「ヘンテコノミクス」
佐藤雅彦・菅俊一・高橋秀明 作
(マガジンハウス)

人は必ずしも経済合理主義的に行動するものではない。身近な暮らしの中の消費を題材に、行動経済学の面白さを愉快な漫画で解説。2017年初刊。

学習漫画といえばなんとなく粗製乱造的な面白くないものが多い印象があるが、これは漫画としてちゃんと面白く出来ている。とても初めて描いたとは思えない。もっとも佐藤雅彦の企画だから、経済学をお茶の間にわかりやすく届けるなんてことはおなじみの仕事かもしれない。
絵柄もオーソドックスなタッチを活かしてややレトロな雰囲気でよかった。世の中にはミニコミ含めてときどきこういった仕事があるから、学習漫画の世界も侮れない。なんでもやり尽くされたということはないのだ。

アンダーマイニング効果・極端回避性・プライミング効果などといっても、実は誰にでも思い当たる体験があり、それを描けるわけだから漫画化するには最適の素材。これを読めば行動経済学がバッチリ判った気になれるヨ。

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読書
「白土三平伝」カムイ伝の真実
毛利甚八 著
(小学館文庫)

漫画・劇画史に巨大な足跡を残しながら、その人物が謎につつまれた白土三平。プロレタリア画家のもとに生まれた少年時代から、房総の海で自然と共に生きる老境までをトータルに追う。

プロレタリア画家岡本唐貴の長男として生まれた白土三平。この評伝は弾圧を受けながら各地を転々として暮らす一家の様子と少年時代。紙芝居作家としての独立とその流れでの漫画家デビュー。「ガロ」創刊と「カムイ伝」開始。その後の「神話シリーズ」と「カムイ伝第2部」。房総の海での自然生活。と、生涯を平均して書いてあるので、少年誌でヒットを飛ばしている最も忙しかった頃のことをもう少し知りたかったが分量としてはわずかである。

自分の中では白土三平は「ワタリ」「風魔」などの少年漫画家であり、「カムイ伝」などの大作はさほどの興味をもってはいない。また「神話シリーズ」やナチュラリストとしてのビーパルな暮らしにも関心はない。赤目プロの歴史の中で小島剛夕は大きな存在であるが、個人的にはあの絵柄に馴染めず、「ワタリ」などの少年漫画タッチがいちばんカッコイイと思っている。
赤目プロはファミリービジネスでマルキシストでもあるせいか、白土三平は他の作家たちとグループを作っていない。そのため漫画史の中でエピソードをあまり聞かない。やはり長井さんと知り合って「ガロ」を創刊する頃のいきさつや赤目プロの動向など、ある程度知ってはいるがもう少し書いて欲しかった。

水木さんが紙芝居からスタートしたのは有名な話だが、白土三平も加太こうじと知り合って紙芝居を描いていたとは知らなかった。

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読書
「チョンキンマンションのボスは知っている」
小川さやか 著
(春秋社)

遥かアフリカから単身香港へ渡航して稼ぐタンザニアブローカー達。その融通無碍なコミュニティと独特な経済システムを追いかけた人類学的ルポ。

香港のチョンキンマンションは店舗と格安ホテルが合体したカオス的な場所として有名なようだ。多人種が入り乱れて生活する中、近年アフリカからの出稼ぎも多く、ここに集うタンザニア人達は皆ブローカーで、香港から故郷へ中古車やケータイなどを売って稼ぐ。長年タンザニアでの研究を続けている著者が体験したマンションのボス的人物との交流記録。

彼らは組合的な互助組織を持っていて、例えば仮に不幸にして仲間が亡くなっても遺体は確実に故郷タンザニアへ送り届けられる。困窮して倒れても「自己責任」で済まされることはない。これは彼らの身分が非常に不安定で法的にはグレーな者も多く、いつ零落して病死してもおかしくない運命ゆえであろう。明日はわが身であることがひしひしと感じられるからこそ、助け合いもあるのだろう。

彼らどうしの取引は確固たる資本主義経済でも贈与交換経済でもない不思議なもの。
安定して香港にとどまっている者が少なく、いつ誰がどこへ動くかわからないという条件があるため、厳密な貸し借りの経済がなく、コミュニティの中で自分が与えた分は誰かに返して貰えば良いという考えだ。あまり個人の事情を詮索しないゆるい繋がりだが確実に繋がっているというコミュニティで、ここには最低でも安心があり、ある種うらやましい社会かもしれない。

仕事の交流の中心にSNSがあるが、別に商売の話ではない日常的な話題が常にあり、商売に特化したシステムに発展しないところがおもしろい。遊んでいるような働いているような全人的な営みを崩さないのがよい。

大きくみればこれらの特徴は多くの移民社会で同じようにあったことかもしれないが、開拓者として根付くのではなく、個人ブローカーとして漂っているところが特殊だ。

なにより著者が研究者で経済人類学的目線で書かれているのがこのエッセイのおもしろさ。一般ルポライターではこうは書かないだろう。

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読書
「永遠の歴史」J.L.ボルヘス 著
(ちくま学芸文庫)

永遠とは?また時間の循環とは?隠喩とは?「千夜一夜物語」はどのように訳されて来たか?小説作品と相通じるボルヘス珠玉のエッセイ集。

今さら自分が言うことでもないが、ボルヘスのあまりの博覧強記にとてもついていけなくて、様々な文献をめぐりながら彼はこう言ったどう言ったと言われても、ああそんな人もいたんですか…との感想で終わってしまう自分が情けない。

ところが例えば永遠についてこれだけ古今東西の文献の中からいろんな見解を思うまま並べて、盛りだくさんなのだからもっとワクワクしてもいいだろうと思うが、なにか乗っていけないところがある。

これはボルヘスの短編小説についても自分が感じていることで前にも書いたが、書いているボルヘス自身が見えてしまって小説世界に引き込まれるない。同じことがエッセイにもあるのかもしれない。俯瞰できすぎているというか、大図書室の中で全ての本を同列に扱っている気配がなんとなくもどかしいのかもしれない。これは読むこちらの脳の容量が小さくすぐ限界になるせいかと思われる。

「千夜一夜物語」はいろんな人がかなり好き勝手に訳しているようだ。

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読書
「ソヴィエト旅行記」ジッド 著
(光文社古典新訳文庫)

共産主義の夢と理想を求めてソヴィエトを訪れた作家ジッド。だが彼が目の当たりにしたのは、既にスターリンの独裁体制となり果てた悲惨な国家の姿だった。

「ソヴィエト旅行記」と、その批判に対して回答した「ソヴィエト旅行記修正」。
ジッドの読者でなくても、彼が社会派の作家でなくマルクス主義にも詳しそうではないことは想像がつく。そんなジッドの作家性が幸いしてこのルポは論理を操ることなく、実際に見て感じたままを綴った読みやすくわかり易い出来栄えとなっている。加えてジッドという人の誠実さ真面目さが窺えて気持ちが良い。あくまで市民・労働者に寄り添い、不法な搾取や不平等をゆるさない正義感をもっていればこそこのルポは書けた。

あっという間に完成しつつあるスターリンの暗黒体制。物価高・低賃金にあえぐ労働者を打ち捨て、自分たちの荘厳な宮殿を作ろうとする政府。皮肉にも今の日本の実情から押し計れてしまうのが悲しい。それにもまして圧倒的な自由のなさと監視体制の恐ろしさ。これも今日見本となる社会には事欠かない。

それにしてもジッドの的確な指摘・批判があっても、なかなか知識人の社会主義への夢は打ち砕かれることなく、ロマン・ロランはじめ、解説によると宮本百合子でさえもジッドの告発する現実を受け入れることはできなかった。それこそが悲しい現実だ。

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読書
「夫婦の一日」遠藤周作 作
(新潮文庫)

50代後半から60代。人生の円熟期を迎えてなお、自身の利己的な欲望を見つめるクリスチャンとしての日々を描いた短編集。

これらの短編が書かれたのは1980~83年。
「六十歳の男」:60歳を迎えた自分がいかにも死を前にした晩年のごとく描かれている。しかし作品中触れられるJRのフルムーンパスキャンペーンが82年で、その条件が夫婦合わせて年齢が88歳以上であること。それらも含めて今から40年前の60代がいかに老人だったか驚くべきものがある。60歳になって街で知り合った女子高生を凌辱する妄想を離れがたい自分を追い詰めているが、読後感は気持ちの悪いものである。

「授賞式の夜」「ある通夜」:作者は50代半ばだが、道ならぬ性的な衝動や残酷な本心を省みる内容。これも50代半ばにもなって人生も終わりに向かっているのにという設定が、現代の50代の感覚と随分違うなという気がする。これらの反道徳的な衝動は多くの人間にあるだろうが、カトリックであるからこそより倫理的な悩みとなるのか。

「日本の聖女」:これだけが異質の時代劇で、細川ガラシャを題材に、日本人のキリスト教信仰における仏教的逃避をみたもの。テーマに沿ってしっかりと構成された好短編だが、私小説風の作品を読んだ後ではやや堅苦しい印象になってしまった。

全編なかなか悩ましい内容だが、表題作含めて文章には日常の時間がゆっくりと流れていて心落ち着く。

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「夫婦の一日」遠藤周作 作
(新潮文庫)

50代後半から60代。人生の円熟期を迎えてなお、自身の利己的な欲望を見つめるクリスチャンとしての日々を描いた短編集。

これらの短編が書かれたのは1980~83年。
「六十歳の男」:60歳を迎えた自分がいかにも死を前にした晩年のごとく描かれている。しかし作品中触れられるJRのフルムーンパスキャンペーンが82年で、その条件が夫婦合わせて年齢が88歳以上であること。それらも含めて今から40年前の60代がいかに老人だったか驚くべきものがある。60歳になって街で知り合った女子高生を凌辱する妄想を離れがたい自分を追い詰めているが、読後感は気持ちの悪いものである。

「授賞式の夜」「ある通夜」:作者は50代半ばだが、道ならぬ性的な衝動や残酷な本心を省みる内容。これも50代半ばにもなって人生も終わりに向かっているのにという設定が、現代の50代の感覚と随分違うなという気がする。これらの反道徳的な衝動は多くの人間にあるだろうが、カトリックであるからこそより倫理的な悩みとなるのか。

「日本の聖女」:これだけが異質の時代劇で、細川ガラシャを題材に、日本人のキリスト教信仰における仏教的逃避をみたもの。テーマに沿ってしっかりと構成された好短編だが、私小説風の作品を読んだ後ではやや堅苦しい印象になってしまった。

全編なかなか悩ましい内容だが、表題作含めて文章には日常の時間がゆっくりと流れていて心落ち着く。

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「夫婦の一日」遠藤周作 作
(新潮文庫)

50代後半から60代。人生の円熟期を迎えてなお、自身の利己的な欲望を見つめるクリスチャンとしての日々を描いた短編集。

これらの短編が書かれたのは1980~83年。
「六十歳の男」:60歳を迎えた自分がいかにも死を前にした晩年のごとく描かれている。しかし作品中触れられるJRのフルムーンパスキャンペーンが82年で、その条件が夫婦合わせて年齢が88歳以上であること。それらも含めて今から40年前の60代がいかに老人だったか驚くべきものがある。60歳になって街で知り合った女子高生を凌辱する妄想を離れがたい自分を追い詰めているが、読後感は気持ちの悪いものである。

「授賞式の夜」「ある通夜」:作者は50代半ばだが、道ならぬ性的な衝動や残酷な本心を省みる内容。これも50代半ばにもなって人生も終わりに向かっているのにという設定が、現代の50代の感覚と随分違うなという気がする。これらの反道徳的な衝動は多くの人間にあるだろうが、カトリックであるからこそより倫理的な悩みとなるのか。

「日本の聖女」:これだけが異質の時代劇で、細川ガラシャを題材に、日本人のキリスト教信仰における仏教的逃避をみたもの。テーマに沿ってしっかりと構成された好短編だが、私小説風の作品を読んだ後ではやや堅苦しい印象になってしまった。

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