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「三島由紀夫 悲劇への欲動」 佐藤秀明
読書
「三島由紀夫 悲劇への欲動」佐藤秀明 著
(岩波新書)

「前意味論的欲動」をキー概念として、三島に生得的に存在する破滅的衝動を追う。平和な家庭人にたどりついた果ての自決はなぜなされたのか?

私にとって日本三大気色悪い作家である谷崎・川端・三島。今回著者が設定した「前意味論的欲動」とは言葉以前に生まれ持つ感覚で、三島の場合「身を挺することによって自身が悲劇的なものとなる」衝動に支配されている。そしてこの欲動を抑えながらなんとか社会と折り合っていく人生となる。
しかしこういった欲動は三島に限らず、作家・芸術家にはなにかしらあるものではないだろうか。言葉以前のものなのではっきり特定できないだろうが、なにか得体の知れないものが作品中に現れているときは、この欲動の仕業かもしれない。それがアブノーマルでなければ本人でも気付かないことに…。

それにしても著者が順に作品を追っていくように、三島は欲動をコントロールして、ボディビルにも励み、だんだん社会人・家庭人として一般性のある作品を完成させてきたのに、あげくの果てにあの衝撃的な自死を選ばねばならなかったところが恐ろしい。

そして以前からぼんやりとは感じていたが、三島にとっての天皇とは政治的なものではなくまた現実の天皇個人でもなくひたすら美学的な存在で、彼の自己都合でこしらえられた架空の象徴のような気がする。本文にもあるとおり忠誠行為があることが忠義の対象を規定する閉じた構造なので、まさしくこれは「前意味論的欲動」でしか近寄れない話なのかもしれない。

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