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漫画家まどの一哉ブログ

   
読書
「ヴォルテール、ただいま参上!」
ハンス=ヨアヒム・シェートリヒ 作

18世紀の啓蒙思想家ヴォルテールとプロイセンの国王フリードリヒ二世の長年に渡る交流と反発を事実に基づいて順に構成した史書的創作。17歳年長のヴォルテールを崇拝する若きフリードリヒの手紙から始まって、ヴォルテールと才媛エミリー・ド・シャトレとの生活、プロイセンでのヴォルテールの数々の困難とフリードリヒとの決裂までを資料そのままに再現。

本の帯には爆笑の連続とあるが、まったくそんなことはない。ヴォルテールを偉大な啓蒙思想家ゆえに学者然とした紳士的な人物と思っていれば、その実際の行動の落差に大笑いするかもしれないが、ヴォルテールが嫌味で辛辣な批評家で金に執着する一筋縄ではいかない曲者であることを知っていれば、この作品で描かれているのはいつものヴォルテールそのままである。

フリードリヒのほうは文化芸術を愛する青年で、最初は王位継承を嫌がっていたが、国王となって権力を手にするやいなや戦争による領土拡張と大量殺人をくりかえすのは人の性(さが)のようなもので、これくらいの文武両道は珍しくはなかろう。

フリードリヒに尊敬されて人の下にも置かない扱いをされているヴォルテールを、「虎の前足で撫でられているようなもの」とした表現がおもしろかった。

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読書
「天使の恥部」
マヌエル・プイグ 作


奔放な男性遍歴をくり返す世界的な絶世の美女である大女優、故郷ブエノスアイレスを離れメキシコの病院で癌を治療中の女、氷河期に入った未来の地球で患者の性欲処理とデータ収集の服務に着く女性。この3人の物語が入れ替わりながら何度も登場するが、この構成が途中まで判然としなかった。
いずれの女性も現れるであろう理想の男性に思いを馳せていて、結果失意を味わうことになる。また離れて暮らす娘への感情というモチーフがよく出てくる。

大女優の話は奇想天外なエンターテイメントの部分を含むが、入院中の女のほうはひたすら友人や恋人との会話に終始し、その内容は男女間の問題やアルゼンチンの政治的動向に関するもの。これらはやや冗長に感じた。

がぜん面白いのは未来社会で性的な任務に励む女W218の話で、実はスパイである理想の男性LKJSとのめぐりあいとかけひき。そのスリリングな展開。この話でようやくある年齢に達すると相手の心の中を読めるようになる女という設定がいきてくる。
終盤極地の収容所で伝え聞く、離れた娘に会いに行くため氷上で消えて戦火の都会に天使となって現れた女の逸話が、聖なるものの顕現を描いていて、そういうのは大好きだ。

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読書
「宇宙飛行士オモン・ラー」
ヴィクトル・ペレーヴィン 作


アメリカのアポロ計画に対抗して始まったソビエトの月面着陸計画。月の裏側目指して同志たちとともに飛び立つ青年宇宙飛行士オモン。彼らが搭乗するロケットはなんと人の手で1段目2段目を切り離し次々と犠牲となって落ちてゆくシステムだ。そしてオモンが乗り込む月面探査機ルノホートはペダル式なのだった。

憧れて入った航空学校やモスクワでの訓練の不条理ぶりなど、自分好みのアイロニカルなナンセンス小説という味わいであったが、途中同僚飛行士が譫妄状態で語った輪廻テストなるものの記録から、なにもかもが曖昧なまま進み幻想文学の雰囲気が漂ってくる。この輪廻テストの箇所は独立した作品としても扱われるらしいが、この中編の中でちょっと異常なボリュームで差し込まれていて、古代エジプト王国の思い出など幻覚の記述ながら目の離せない語り口。このまま不思議な宇宙旅行へと連れ去られてしまう感覚だ。

さて有為な若者たちのカミカゼ的犠牲によって主人公オモンがたどりついた月世界には、あっとおどろく国家的秘密があったがここはネタバレ。これぞまさしく現代の世界名作文学。

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読書
「ブロディーの報告書」
ホルヘ・ルイス・ボルヘス 作

再読。ボルヘスはなにが苦手かと言うと、解説にもあったとおりその再話者・注解者としての話法であって、お話の中に浸り切ってしまいたい読者としてはその楽しさがないところだ。いわゆる衒学的な手触りはこの方法ならではのものかもしれないが、快楽の種類が自分の好みとはちょっと違う。

この短編集はそういった「伝奇集」や「不死の人」と違って、オーソドックスな小説の方法で書かれていて、南米の荒くれ者・無法者のやらかしをいろいろと描いて愉快だ。ただそれでもどこかで話者ボルヘスが語っていますという、一歩引いたような感覚を感じてしまうが、これはたぶん自分の思い込みであろう。

「マルコ福音書」という作品が恐ろしいオハナシ。

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読書
「ラテンアメリカ怪談集」
J・L・ボルヘス 他

怪談にも定番の設定あって、家庭教師が担当したのは実は恐ろしい子供、古の中国皇帝の座をめぐる魔術物語、初めて入った古書店で出会う魔法の書、など何度か目にした気がするが、いくらでも面白いものはある。

ライネス「吸血鬼」:ホラー映画の主役に選ばれた古い屋敷に住む貴族の末裔が、じつはほんとの吸血鬼だという話で、笑えるように書いてはいないが、全体を一つのコメディとして読んでもさしつかえないと思う。
カサレス「大空の陰謀」:カサレスは以前「脱獄計画」という作品を面白く読んだが、この作品もそれと同じく幻想的な設定ながら、話を追うおもしろさはエンターテイメントのノリがある。これは並行宇宙を行ったり来たりするお話。
インベル「魔法の書」:途切れなく描かれた意味をなさないアルファベットの羅列が、ふとした糸口を見つけると意味を追って読める。つい油断して目を離すとまた意味を失ってしまう。これは新鮮な着想。

コルタサルはいつもそんなには感じない。それよりボルヘスはどうしても文を追う楽しさがなくて苦手。

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読書
「桜の園」
チェーホフ 作

故郷の邸宅と桜の園を手放すことになった没落貴族夫人を主人公に、娘達と弟や使用人・知人達との最後の日を描いた名作。

主人公のラネーフスカヤ夫人が故郷の家に帰ってきてから、翌日買い取られた家を手放して旅立つまでが一直線に進む。ストーリー上の作為的な変化がないのだが、これも無為無策の夫人とその弟を描く上では納得できる展開だ。友人の実業家が早急に土地を別荘用に貸して運用することを勧めるも、ぼんやりとしたまま本気で手を打とうとしない。この現実的な実業家とのんきな浮世離れした貴族達とのやりとりが迫真のおもしろさ。
夫人「じゃ、どうすればよろしいの?ちゃんと教えてくださいな」
実業家「毎日毎日お教えしてるじゃないですか。それも同じことを…」
夫人「でも別荘に別荘族なんて、低級なのよねえ、悪いけど…」
この辺りの会話がさもありなんだよ。貴族に会ったことないけど。

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読書
「人生の隣」
安岡章太郎 著

「人生の隣」というタイトルは、広津和郎が「散文芸術の位置」という文章で詩、美術、音楽といった分野に比べたときの文学の位置付けたところからとったらしい。日本文学の作家・作品について語ったエッセイ集。

安岡章太郎の文章は、これだという結論にたどり着いていないところで終わっているものが多い気がするがそこが気持ちが良い。なんとなしに気になった、思いついた取っかかりのようなものを、そのまま文章にできるのも才能のうちだなと思う。
極端に言えば小説なんてなんだかわからないもやもやしたところまで踏み込んで、何が書かれたのか書いた本人にも確信が持てないところまで描かれてないと、説明されただけになってしまって面白くない。
本格的な文芸評論はまた違うのかもしれないが、エッセイの面白さもその辺りにあるのではないか。これは私が安岡の文章が心地よくて、するすると読んでしまうからそう思うのかもしれないし、心地よさの秘密がそこにあるのかもしれない。

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読書
「夜の来訪者」
ブリーストリー 作

家族のみでなごやかに行われていた婚約パーティ。そこへ突然ひとりの見知らぬ警部が来訪し、ある若い女性の自死事件を告げる。そしてしだいに家族全員がその自殺の要因になっていた事実が解き明かされてゆく。

父親から始まって一人また一人と、家族のそれぞれが自殺した女性にかつてしていた仕打ちが明らかになってゆくところはまさにミステリーの謎解きのようだ。しかしその展開があまりにも作為的で無駄がないために、ストーリーを仕掛けている感じがわかっていやになってしまう。短い舞台劇だから仕方がないのかもしれないが…。後半どんでんがえしが始まってからは、トリックを解き明かす面白さがあってついつい読まされてしまった。

人は一人で生きているのではなく、社会の中で助け合っていかなければならないという正義感はまあよいとしても、そのテーマ自体にただちに感動するようにはできていない。そこはトリックストーリーの役どころだろうが、いずれにせよ味わうとか鑑賞するといった楽しみはなかった。

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読書
「戦後文学放浪記」
安岡章太郎 著

安岡章太郎が文壇デビューしてからの各作品について、そのなりたちと当時の生活をふりかえった自伝的エッセイ。
世代論で作家をくくっていくことには疑問を感じるとしても、戦中派というくくりは明らかに特徴的なものがある。戦争で死ぬ以外の道を考えていなかった青年が、敗戦により突然未来へ放り出されてぼうぜんとしているという共通体験を持つ。
しかし「第三の新人」という呼ばれ方をしていた安岡・吉行淳之介・庄野潤三・小島信夫・遠藤周作などの世代は、比べれば少し上の島尾敏雄・椎名麟三・梅崎春生らとは違うのかもしれないが、今になってみるとそれぞれ各作家の個性の違いのほうが大きいと感じる。そして誰しも自分達がそれまでの世代と比べて中途半端な、確固とした立場を持てない世代だと自覚するのは、現在でも同じではないか。

戦争責任の亡霊といった大きなものでなく、自分の心の中に響いてくるもっと卑小な些細なもの。母親が死んだ時、病室の窓から干上がった海に突き立つ何本ものの黒々とした棒杙を見た衝撃。自分にとってはけっして卑小でない何かを、欠落を埋めるように格闘した創作活動は、はたして結果へたどりつけたのだろうか。「海辺の光景」をめぐる回想が胸を打つ。

ところで安岡のややシュールレアリスティックな初期短編も自分は好きであります。

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読書
「ヴェニスの商人」
シェイクスピア 作

元となったストーリーは1590年代のイギリスでは知られているものらしいが、そこはシェイクスピアの腕で俄然おもしろくなっているとのこと。
詩的で大仰な言い回しが多く、自然主義以降のリアリズム文芸に親しんだ経験からするとやや違和感はあるが、喋っている内容は実に人間くさくて愉快だ。なんといってもシャイロックがひときわ味がある役どころ。他に道化役のランスロットがいい。
その他青年たちはみな金も名声もあり、まことに善人で勇気と誠実さを併せ持つ言わば欠点のない美男美女で、やはり芝居の上での人物としか思えない。比べてシャイロックの喜怒哀楽は悪人ではあるにしても素直に納得がいく。しかしいくらユダヤ人だからといって、今から見るとあんまりな扱いだよ。

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