漫画家まどの一哉ブログ
「子どもがほしい」 セルゲイ・トレチャコフ
「子どもがほしい」
セルゲイ・トレチャコフ 作
(白水Uブックス)
黎明期ソビエト。極めて合理的・社会科学的な女性共産党員ミルダは、優秀な子孫を残すため、夫を持つことなく精子のみを得ることを果断に実行する。粛清により非業の死を遂げたトレチャコフの問題作。
思いっきり物議を醸すであろう設定で初めから面白い。
舞台はミルダの暮らす共同住宅と付属の劇場として使われているクラブスペース。彼女は優生学と獲得形質の遺伝という、当時ソビエトでも支持されていた思想を信条に優秀な労働者を選択。「夫はいりません。あなたの精子だけください」と愛なき生殖をくりかえそうとするが、地域住民の間でとんでもない騒動を巻き起こすのは必然である。
登場する男性には誠実な人間もいるが、劇団代表は新人女優に採用と引き換えに肉体を迫るし、共同住宅の管理人は妻が長く留守中にミルダに性交を要求。街のフーリガンたちは悪びれもせず集団レイプ。などなど女を性欲の対象としか見ない連中をわざと書いている様だ。しかしその対局として、ミルダに体を提供した男性労働者は妊娠のための道具であって人間扱いされていない。彼と恋人の錯乱も当然。さすがに人情は合理主義では片付かない。
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