漫画家まどの一哉ブログ
「蹴り損の棘もうけ」 サミュエル・ベケット
読書
「蹴り損の棘もうけ」
サミュエル・ベケット 作
(白水社)
ながらく作者によって再版が認められなかったベケット27歳の初期連作短編集。
ダンテ「神曲」やシェイクスピア(もちろん聖書も)その他古典からの引用やパロディ、ダブリン市内及び郊外の事細かな実際の様子などが絢爛豪華に散りばめられた饒舌体で、そのせいか観念的ではないのに難解で衒学的な体裁となっている。
主人公は世間的にはちゃんとした人間に見られているが、その実自分の時間を恋人より大切にするマイペースな男で、おそらく作者自身がモデルと思われるが、彼が2度の結婚を経て死に至るまでが自嘲的に描かれている。したがって全編ユーモラスではあるが微苦笑といったような味わいである。
ここに後の「ワット」や「モロイ」など主要作品に登場する、やることなすこと合理性と進捗を欠きどこへ向かうのやらわからない男たちの原型を見てしまう。本作ではまだ主人公本人に知的で明確な意識があるが、後の作品ではこの自意識が無化され描写も削ぎ落とされて、あの不条理で虚無的な世界へと結実していったのではないだろうか。この作品では人物はまだ確かに我々の側にいるが、やがて感情移入の不可能な混乱する奇妙な人間を発見する、その糸口のような作品に思う。
「蹴り損の棘もうけ」
サミュエル・ベケット 作
(白水社)
ながらく作者によって再版が認められなかったベケット27歳の初期連作短編集。
ダンテ「神曲」やシェイクスピア(もちろん聖書も)その他古典からの引用やパロディ、ダブリン市内及び郊外の事細かな実際の様子などが絢爛豪華に散りばめられた饒舌体で、そのせいか観念的ではないのに難解で衒学的な体裁となっている。
主人公は世間的にはちゃんとした人間に見られているが、その実自分の時間を恋人より大切にするマイペースな男で、おそらく作者自身がモデルと思われるが、彼が2度の結婚を経て死に至るまでが自嘲的に描かれている。したがって全編ユーモラスではあるが微苦笑といったような味わいである。
ここに後の「ワット」や「モロイ」など主要作品に登場する、やることなすこと合理性と進捗を欠きどこへ向かうのやらわからない男たちの原型を見てしまう。本作ではまだ主人公本人に知的で明確な意識があるが、後の作品ではこの自意識が無化され描写も削ぎ落とされて、あの不条理で虚無的な世界へと結実していったのではないだろうか。この作品では人物はまだ確かに我々の側にいるが、やがて感情移入の不可能な混乱する奇妙な人間を発見する、その糸口のような作品に思う。
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