漫画家まどの一哉ブログ
「十二月八日・苦悩の年鑑」 太宰治
「十二月八日・苦悩の年鑑」
太宰治 作
(岩波文庫)
終戦の日を挟み、戦前戦後の身辺を語った作品を中心に、太宰の国家観・人生観を垣間見る。
14編のうち「水仙」「花火」は既読であったが、この2作は破滅型の人間を描いて鬼気迫る秀逸の出来栄え。さすがに太宰だ。自分を天才画家と思い込み、夫を捨てて虚飾に溺れる女性。コンプレックスの塊でいい金づるにされて家計を破壊する長男。私小説でない作品の面白さは群を抜く。
その他掲載作は戦禍を受けてふるさと津軽へ一家で帰ることを中心に、一族中自分のみがいかに外れ者の情けない人間であるか、多くの支援者に迷惑をかけて兄弟たちにも顔向けできない失格者であるかを滔々と並べ立てるいつもの太宰流である。
この作風に関しては人によってはわざとらしい韜晦。或いは自己愛ゆえの感傷を感じて、批判的に見る人も多いだろう。それくらいのことで大袈裟な…というわけだが、そこは趣味の問題としておく。自分は好きでも嫌いでもない。
戦後太宰は軍閥官僚を批判し、それでも日本を愛することにおいては純粋だった旨述懐するが、これは平凡な民衆としては素直な気持ちだろう。こういう純朴で情緒的な視点であるため天皇制を相対化できない。これもやむなしか…。
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