漫画家まどの一哉ブログ
「バラントレーの若殿」 スティーヴンスン
「バラントレーの若殿」
スティーヴンスン 作
(岩波文庫・海保眞夫 訳)
兄は颯爽として快活だが希代の悪党。対して誠実で実直だが冴えない弟。死を賭して対立する二人。スコットランド名家の物語。
スコットランドからフランス、インド、北米までにわたる大スケール。波瀾万丈の物語でスティーヴンスンの面目躍如だ。
ジェームスというはっきりした悪人を設定したことで、非常にわかりやすい面白さがある。このジェームスが権力や地位を背景とする政治家的悪人ではなく、我欲のままに直接的行動に及ぶ犯罪者気質なのがよい。しかも才気煥発、派手でウケが良い。
対する弟ヘンリーは善人ではあるが、人当たりは悪く口数は少なくはっきりしない、いわゆる暗い人間で大衆の人気が全くないことも好対照。しょせん兄ジェームスとの戦いは絶望的なものとならざるを得ないのである。混乱する彼を支える老執事マケラーが物語の語り手であることで我々読者も心の平衡を保つ。
途中、海賊船に乗って荒れ狂う海を渡るシーンがあるが、「宝島」は言うに及ばず、海洋冒険小説を書かせたらスティーヴンスンの右に出るものなし。スコットランド周辺は自家薬籠中の海域だ。
PR