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漫画家まどの一哉ブログ

   
「鷹」 石川淳
読書
「鷹」石川淳 作
(講談社文芸文庫)

「鷹」「珊瑚」「鳴神」の中編三作。どれも作者の長編伝奇小説を短くまとめたような作品。1950年代、もはや戦後が終わっていよいよ逆コースが強化されようとする世の中。異世界を根城に集うアウトロー達と支配を企む権力者との戦いが始まる。エンターテイメントの方法で書かれた社会派幻想小説。

長編「狂風記」でもそうだが石川淳はスラムやゴミの山をアジールとする反権力アウトロー達が、世界を混乱に落とし込んだあげく戦いに破れて散っていくといった設定が好きなようだ。「六道遊行」「至福千年」なども時空を超えて一癖も二癖もある登場人物が活躍する壮大な物語だが、自分はこの一見むちゃくちゃ面白そうな伝奇小説群が今ひとつ面白くなく、どうしてだろうと考えてしまう。

独特のリズム感のある戯作的文体で、通俗を装っているが芸術がバレている。これはよい。ところがキャラクターはエンタメの定番的な役どころを揃えていてやや類型的な感じがする。とくに姉御肌の若い女ボスが出てきて「どうだい。ちっとは身の程をおもい知ったろうね。」などと言われるといかにも古いなと感じてしまう。ややべらんめえ口調の乞食少年などもその類型だ。ここはさすがの石川淳も時代の壁を超えられなかったか、人物はもっとリアリズムでよいのに…。
またストーリーで読ませているにしては幻想的なこと不思議なことがむやみに起きるので、なんでもありとは思わないが、ちょっと気持ちが引いてしまう。エンターテイメントのふりをしているが、実はそうではないのか、どこで読ませるか難しいところだ。国枝史郎や夢野久作の言わば通俗に徹して時代を超えてしまう方法ではこの印象はない。石川淳はなにかアクロバット的なことをやらかしているのではなかろうか。謎だ。

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