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「夜と陽炎」耳の物語2 開高健
読書
「夜と陽炎」耳の物語2
開高健 作
(岩波文庫)

自伝小説「耳の物語」後編。
牧羊子との学生結婚後、サントリー宣伝部でコピーライターとして日々の生計を立て東京へ転勤。夜の街を彷徨う毎日を経て作家デビュー、芥川賞受賞。フランスを拠点にヨーロッパ各地を取材。やがて戦火のベトナムへ。帰国後鬱状態を経て「オーパ!」の世界へ。

自分はあまりルポルタージュ小説を好むほうではなく、どちらかといえばインドア・妄想型の作風を愛する者だが、社会派小説やプロレタリア文学も好きだし、開高健の「自分の中には何もなく、ひたすら外へ向かう遠心力で書く文学」という動機も理解出来る。
ただ、ともすると世のルポルタージュ小説は文章としての魅力に乏しいものに出会うことがあって、まるで新聞記事を読んでいるのと変わらない寂しい印象だ。

ところがこの開高健の仕事はまさに魔術的な目もくらむ言葉の連続であって、1行読むだけで脳内に電流が走り、豪速球を腹にめがけてドシンドシンと投げ込まれるような、超絶技巧の生演奏を聞かされるような、超高級ウィスキーを流し込まれるような(飲んだことないけど)、暴力的に美しい散文詩。その魅力に捕らえられて離れられないものだった。
安っぽい言葉で言えばこれぞ芸術。ぬらぬらした夜の東京も、激烈な戦禍のベトナムも、アラスカのサーモンも確かに現実はあるわけだが、その真実を超えて作品の魅力はここにあった。

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