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「千霊一霊物語」 アレクサンドル・デュマ
読書
「千霊一霊物語」
アレクサンドル・デュマ 作
(光文社古典新訳文庫)

果たして切られた首にまだ意識があって喋りだす事はあるのか?奇怪な殺人事件の現場に偶然集まった識者や名士の面々。科学的見解を元にすべての怪現象を否定する医師を狂言回しに、それぞれがかつて経験した不思議な心霊現象を披露していく。
このような形の短編集を枠物語というそうだが、海外文学でときどき出会う。登場人物の一人に作者デュマがいて聞き取り役となっている。

さすがにどの話も面白く上質の怪奇短編でああだこうだいうこともない。ホフマンからノディエへと伝わった怪奇幻想文学が、ノディエのサロンに集う後輩デュマの手にかかって、芸術性を捨象した分かりやすいものとなった。精神性や耽美的な味わいといったものはないが、これがデュマの役どころだろう。19世紀フランスの大人気作家デュマの生粋のエンターテイメント作品が、現代のわれわれにも文句なしに楽しめるのはなぜだろうか?

バルザックでもそうだが、やはり造形する人物像にリアリティがあって心憎いところをついてくる。面白がらせるところも過度な刺激性に頼っていない。描写は無駄なく平易だがけっして子供向きではなく、リズム感があって文を追う楽しさがある。こういう作品が時代を越えてくる。やっぱり理想のエンターテイメントというわけです。

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