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漫画家まどの一哉ブログ

   

読書

 

「脂肪の塊」

モーパッサン 作

 

自分にとってモーパッサンとは、実体験を元に書いた怪奇幻想短編が非常におもしろい作家だが、これは違う。リアルなはなし。

 

「脂肪の塊」:ここで言う脂肪の塊(ブール・ド・スイフ)とは主人公の娼婦のあだ名で、それほどに肥満しているというわけ。

プロシアの侵略から逃れるため、馬車に乗り合わせた一行のなかにこのブール・ド・スイフがいて、職業柄皆からは蔑視されていた。行路が難渋して時間がかかり、全員腹が減ってかなわなかったときに、ただ一人大量の弁当を持ってきていた彼女が皆を助ける。宿で一泊した翌朝、プロシアの士官に出発を止められたのは、その士官がブール・ド・スイフに体を提供するよう条件をつけたためだった。すると一行の態度は一変し、いやがる彼女にぜひとも犠牲になってプロシアの士官にその身をささげ、自分たちを出発させてくれという。あわれ犠牲になったブール・ド・スイフ。彼女はふたたび出発した馬車のなかで感謝されるどころかあらためて蔑みの視線をおくられてしまう。

と、ネタバレ。人間って勝手なものだよ。

 

「テリエ館」:これはある娼館に集まる娼婦たちと男たちのはなしで、館を切り盛りするマダムの計画のもと、ある田舎の少女の聖体拝受式に参加して帰ってくるまでのワイワイガヤガヤを描いた楽しい話。

西洋の娼家というとバルガス・リョサの「緑の家」など思い出すが、映像的にはルイス・ブニュエル監督、カトリーヌ・ドヌーブ主演の「昼顔」という自分の好きな映画作品の記憶を借りてイメージしながら読んだ。

(新潮文庫)

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読書

「ロボット」

チャペック 作

ロボットSFの嚆矢。1920年代の作品ながらロボットという設定がどうしても描いてしまう人間存在や社会と労働の問題は色濃く描かれていておもしろい。

おどろいた事にここで登場する人間そっくりのロボットたちは、機械仕掛けではなくバイオテクノロジーの産物だ。生命に簡単な発達を促す方法で、即席人間のようなものを大量に工場生産してしまう。彼らは感情を持たないし、死さえも恐れない理想の労働者だった。

やがて世界中に広まったロボットたちが人間に反旗を翻し、物語は残された少数の人間たちの末路まで行き着くところは、短い戯曲ながら大きな展開で、現代から見るとお約束だがそんなことは気にならないスピーディーなおもしろさがあった。 世界を支配したロボットたちだが、実はその寿命は20年しかないというところも、現代のレプリカントに受け継がれている設定で、やはりロボットは早死にするか永遠に死なないかのどっちかでなければ、人間の死の問題をあぶりだすことはできまい。

さてロボットたちが生き残ろうと思えば、開発者が残した創成のヒミツを知る以外解決の道はないのだが、その書類も既に灰燼と帰した最後に、愛に目覚めたロボットのアダムとイブが現れるところで話は終わってしまう。どうなりますやら。

自分はSFの黎明期のようなものは好きで、ウェルズはどれも面白いし、リラダンの「未来のイブ」やザミャーチンの「われら」など楽しかったが、その後発達したSFの世界にはどうもついていけないという古い人間だ。えらいすんまへん。

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読書

 

井伏鱒二の歴史小説

 

「さざなみ軍記」:今話題の平清盛ではなく、都を追われ落ちのびてゆく平家の敗走を三位中将の若き息子が書き残した日記。これを現代語訳したものという設定だが、滅びいく者の哀感ただようまことに美しい文章だ。闘って負けるということは死を意味するので、それが全体としての無常観を醸し出しているのかもしれない。そんな中にも、相手の首を腕力でねじ切る剛力の者が登場したり、たぶんに幻想味もあって心地よく酔える。

 

「ジョン万次郎漂流記」:有名なジョン万次郎が漂流してアメリカの捕鯨船に助けられ、日本に帰国後は通訳として活躍するまでを追った一代記。主人公万次郎の明るくポジティヴな性格が絶望的状況から人生を切り開いていくようすがよくわかる。よって楽しさがある。

 

「二つの話」:もし高速で運動すれば時間は逆行するという物理学理論にのっとり、過去へ旅するお話を子どもたちに提供するという設定。SF的理由付けはそれのみで、タイムマシンも必要としない。新井白石に会って、模型飛行機をあげようとする話と、秀吉の聚楽第で茶会準備にこき使われる話だが、歌会で池のカエルを黙らせる仕事が愉快。

(新潮文庫)

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読書

「三位一体の神話

大西巨人 作 

 

これだけ硬派な潤いのない文体で、なぜ迫真のミステリーたりえているのか?大西巨人は不思議な作家だ。とはいえ日本文学史上の巨星であってみれば、自分の非力な読書力がそう思わせているのかもしれない。情感に訴えるところまるでなく、ただただ論理的に細密に事実を繋ぎ合わせ、モザイク的に構成されるこの大西スタイルは、意外にも引き込まれてしまって快感なのである。

遅筆で有名な小説家Aがベッドの上で服毒死していた。実はどうしてもかなわない小説家Aの本物の才能を妬み、また作品内で自身の出自を暴露されることを恐れた小説家Bによる自殺に見せかけた完全犯罪であった。残された遺書の筆跡鑑定でも疑いはかからない。 小説家Aの死後、作品全集を編集する若き編集者Cは、発見された未発表原稿から遺書のトリックを解き明かし、犯人である小説家Bに迫るがついに第2の殺人の犠牲者となってしまう。 しかしこの第2の殺人のとき滞米を装った小説家Bのアリバイは、ある偶然から崩れていくのだった。

作品内ではたしかに創作に対する社会に開かれた作家の姿勢など、テーマを見つけて読むことも出来るが、自分はただミステリーとして充分おもしろかっただけで、それがこの文体で味わえたのだからこんな経験は他にないと思う。

 

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読書

「犬の心臓」

ブルガーコフ 作

 

ドタバタギャグという分野は自分にとっては基本である。しかもそれが世界の名作であるからたまらない。

 

飢えて凍えて市中をさまよっていた野良犬シャリクは、ある日突然裕福な医師フィリッポヴィチに拾われ、ぜいたくな毎日をおくることになった。しかしそれは恐ろしい外科実験の前ぶれだったのである。唐突に手術を施され死んだ青年の脳下垂体を移植された野良犬シャリク。想定外にも彼はしだいに犬の身を忘れ人間へと進化し始める。そしてできあがった人間シャリクは、とんでもなく下品・無作法・悪辣な男だった。この犬から出来た人間が医師の家でまきおこす数々の騒動の結末やいかに!?

 

というとんでもないSFもどきの奇想小説。模索するプロレタリアートの国、新生ソビエト社会の矛盾を風刺している面もおもしろいが、けっして単純な寓意小説ではない。浅知恵を身に着け欲望のままに行動するシャリクをはじめ、ムチャな実験手術を行った医師フィリッポヴィチや、真面目なだけの人物は登場しないところがギャグの痛快感をさそうが、これだって実はリアリズムなのかもしれないね。

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巻頭では「コミックビーム」編集長の奥村勝彦氏へのインタビューがあって、「アックス」編集部と認識をおおいに共有しているが、個人的には疑問もある。それは「ビーム」は作家に原稿料が出て商業的に成立しているが「アックス」はそうではないというところである。面白いと思う作品が両者で違っているという理由による。
「アックス」作品の中にもこれなら「ビーム」に載っていてもいいんじゃないかと思うものがあるのかもしれないが、たぶんそれは甘い片思いであって、悲しいかな商業誌の編集部のアンテナからは落ちるのである。たぶん漫画を成立させている約束・読者にとっての約束が違うのだ。この約束事は世界観から技術的なコマ展開まで含む。

たとえば三本さんの「まっとうな男」などたいへん面白い小品だが、「ビーム」読者が理解している漫画の約束はなにもないとおもう。簡単に言えば一般的には漫画はわかりやすいカタルシスを期待されているもので、菅野作品・三本作品はもとより古泉作品にもそんなものはない。

したがって編集者が後ろでしっかり支えているから安心して突撃してくれといっても、作家の収入を保証する範囲での表現であり、表現は保証するが収入は保証できないのとでは、まるで違う。それでなければ菅野さんはもっと儲かっているハズ?

ところで鳥子さんと具井さんは内容はまるで違うが、風味が私好みです。風味ってなんでしょうかね。そんな私の「狙われた三人」元ネタは「三匹の子ブタ」であります。まだまだ続くお伽噺シリーズ。ぜひお楽しみください。

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読書(mixi過去日記より)
「存在の耐えられない軽さ」
ミラン・クンデラ


プラハの春以降、ソビエトに蹂躙されたチェコスロバキア。新聞の投書記事を反共産主義とみなされ、医師の職を追われることになった主人公を中心に、その妻、友人たちとの恋愛と死までを描く。

小説と言う分野はずるいもので、言葉を使うものだから、語り部として有能な作者ならば、自身の思想や想いをそのままの形で書き述べることが出来る。
作中人物に長々と語らせてもよいが、実は彼女の愛はこうだった。彼にとって女とはこういう存在だった。この時代の政治とはどうだった。などなど作者目線で書いてしまうのは自由だ。クンデラはこの辺が自由自在で、哲学や政治思想に関する直接的な著述が、この恋愛小説には多く含まれているが、だまされたように読めてしまう。

もしその思想的な部分が作品のテーマとなっているのならば、単純な駄作であろうが、あくまで人間の存在に正解はなく、登場人物を動かすことによって、一歩ずつ確認していく作業が、芸術の醍醐味であろう。この話は大人の恋愛を描いたものだが、タイトルどおり人間の存在の問題を含んでいるので、自分でも読めた。

ロシアの監視下にあり、秘密警察の罠が渦巻くプラハでの話もスリリングだが、終章、田舎に移り住んでようやく心の平穏を得た二人の幸福の発見、かわいがっていた飼い犬の死、など実に細やかに描かれていて泣きそうになった。

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映画(mixi過去日記)
「眠らない街・新宿鮫」1993年
監督:滝田洋二郎
原作:大沢在昌
出演:真田広之/田中美奈子/奥田瑛二


大沢在昌のハードボイルド小説「新宿鮫」シリーズを、自分は過去8作ほど読んでいる。主人公の鮫島刑事が孤立した設定で、そういう枠が嵌められているせいか、スラスラと読めて、エンターテイメントの醍醐味を味わうことができる。もっとも大沢在昌で一番面白かったのは「天使の牙」で、ほかに3作ほど挑戦したが、ばかばかしくてついていけなかった。とは言っても、「天使の牙」だって脳が移植されている女刑事という、かなり奇想天外な設定で、このあくまで自分にとっての読める読めないの違いが、どこからくるのか自分でもわからない。

さて、映画は「おくりびと」で各種賞をもらった滝田洋二郎監督作品だが、全体に平板な印象だった。ストーリーと役どころに一歩踏み込んだものがない。でも真田広之は理想通りのかっこよさ。
それにも増して良かったのは、奥田瑛二演ずるゲイの改造銃を製作する男で、アジトに真田広之を捕まえて、なぶり殺しにしようとするシーンが迫真的だった。へらへらと笑いながら、相手の肉体を欲しつつもナイフで傷つけ、拳銃を口に差し込み「俺の銃を舐めてほしいと言ってみろ」と迫る。まさに異常な人格だが、こんな人間は実際いくらでもいるはず。いかにも人間とは破綻したものである。そして共同体に常に内包されているものである。

これは奥田瑛二の表現力が優れているのだと思う。例えば田中美奈子は、絵に描いたようなロック少女というダッサイ役を、まったく膨らませていない。他の刑事役も同じ。奥田瑛二の狂気が観れてよかった。

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読書
「ミイラ物語」
ゴーチェ
 作

古代エジプト。大司祭の娘タホゼールは裕福に暮らしていたが、祭りの日に見初めたヘブライ人ポエリの後を追って姿をくらます。身分を偽ってポエリの経営する農園へまぎれ込んだのだ。しかしある夜ポエリの舟をつけてナイル川を泳ぎ渡ると、たどり着いたヘブライ人の部落にはポエリの愛する人がおり、タホゼールは恋に破れたことを知るのだった。
かたや世界を支配する大王ファラオは、タホゼールを我がものにするべく国中を探しまわり、ついにヘブライ人の部落からタホゼールを略奪してしまう。
一方、虐げられたヘブライの民を導くモーゼはファラオに抗ってエジプトからの脱出を目指す。ここにファラオに仕える学者たちとモーゼの魔法合戦がくりひろげられ、やがて海を割って進むヘブライ人たちを追いかけるファラオの大隊は大波にのまれて消え去ってしまうのであった。
といういきさつが発掘されたミイラに添付されていたというオハナシ。

私小説的な近代文学や身辺雑記、また最新のアンチロマンなどを読んでいると突然イヤになってくる。もっと空想の羽をひろげたものを読みたくなって、今回選んだのがこれ。現実離れしたストーリーに救われた。もちろん世の中空想的な話はゴマンとあるだろうが、なにぶん古いものが好きなもんで…。

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青林工藝舎やセミ書房には旧「ガロ」のバックナンバーが全册揃っているが、自分も好きな作家の単行本に収録されていない作品を「ガロ」等から切りはずして長年持っている。単行本未収録作品はつげ忠男や三橋乙揶にもあり、菅野修のものはかなり多い。最近書棚を整理しているのであらためて確認してみたが、これらの切り置きは自分にとってけっして捨てられない貴重品である。
例えば自分の所有していた「ガロ」と単行本を見比べると
鈴木翁二作品なら以下のとおり。他にもあるかもしれない。

「五点やの狸」1971.6
「詩人の部屋」1972.11
「懸垂」1973.6
「夢を見た人」1974.6
「丘」1974.9
「けいこちゃんの好きなビールについての一考察」1974.10
「秋の負債」1974.11
「軌条の脇道」1974.12
「海のキラキラ」1975.2
「赤いゆびをしたシルウエット」1975.4
「ちきゅうのよかぜ」(少年存在学ノート)1991.10
その他『あした」「ウツクシイユウガタ」等の少年存在学ノート

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