漫画家まどの一哉ブログ
井伏鱒二の歴史小説
読書
井伏鱒二の歴史小説
「さざなみ軍記」:今話題の平清盛ではなく、都を追われ落ちのびてゆく平家の敗走を三位中将の若き息子が書き残した日記。これを現代語訳したものという設定だが、滅びいく者の哀感ただようまことに美しい文章だ。闘って負けるということは死を意味するので、それが全体としての無常観を醸し出しているのかもしれない。そんな中にも、相手の首を腕力でねじ切る剛力の者が登場したり、たぶんに幻想味もあって心地よく酔える。
「ジョン万次郎漂流記」:有名なジョン万次郎が漂流してアメリカの捕鯨船に助けられ、日本に帰国後は通訳として活躍するまでを追った一代記。主人公万次郎の明るくポジティヴな性格が絶望的状況から人生を切り開いていくようすがよくわかる。よって楽しさがある。
「二つの話」:もし高速で運動すれば時間は逆行するという物理学理論にのっとり、過去へ旅するお話を子どもたちに提供するという設定。SF的理由付けはそれのみで、タイムマシンも必要としない。新井白石に会って、模型飛行機をあげようとする話と、秀吉の聚楽第で茶会準備にこき使われる話だが、歌会で池のカエルを黙らせる仕事が愉快。
(新潮文庫)
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