漫画家まどの一哉ブログ
「脂肪の塊」
読書
「脂肪の塊」
モーパッサン 作
自分にとってモーパッサンとは、実体験を元に書いた怪奇幻想短編が非常におもしろい作家だが、これは違う。リアルなはなし。
「脂肪の塊」:ここで言う脂肪の塊(ブール・ド・スイフ)とは主人公の娼婦のあだ名で、それほどに肥満しているというわけ。
プロシアの侵略から逃れるため、馬車に乗り合わせた一行のなかにこのブール・ド・スイフがいて、職業柄皆からは蔑視されていた。行路が難渋して時間がかかり、全員腹が減ってかなわなかったときに、ただ一人大量の弁当を持ってきていた彼女が皆を助ける。宿で一泊した翌朝、プロシアの士官に出発を止められたのは、その士官がブール・ド・スイフに体を提供するよう条件をつけたためだった。すると一行の態度は一変し、いやがる彼女にぜひとも犠牲になってプロシアの士官にその身をささげ、自分たちを出発させてくれという。あわれ犠牲になったブール・ド・スイフ。彼女はふたたび出発した馬車のなかで感謝されるどころかあらためて蔑みの視線をおくられてしまう。
と、ネタバレ。人間って勝手なものだよ。
「テリエ館」:これはある娼館に集まる娼婦たちと男たちのはなしで、館を切り盛りするマダムの計画のもと、ある田舎の少女の聖体拝受式に参加して帰ってくるまでのワイワイガヤガヤを描いた楽しい話。
西洋の娼家というとバルガス・リョサの「緑の家」など思い出すが、映像的にはルイス・ブニュエル監督、カトリーヌ・ドヌーブ主演の「昼顔」という自分の好きな映画作品の記憶を借りてイメージしながら読んだ。
(新潮文庫)
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