漫画家まどの一哉ブログ
「科学にすがるな!」
佐藤文隆・艸場よしみ
(岩波現代文庫)
永遠とは死とは?宇宙物理学に答えはあるのか?文科系ライターが物理学者へ直球の問いかけ。
物理学者佐藤文隆へのインタビュー記事形式ではなく、ライターの艸場がいろいろな疑問をぶつける様子がセルフレポートの形で書かれている。毎回喫茶店で会うところから始まる。人間の存在とは?死とは何か?最先端の宇宙物理学や量子力学から何らかの科学的な回答が得られるのではないか?これは素人の自分でも思ってしまうこと。ところが佐藤からすればこの質問は全くの筋違いで、前半はそのことが伝わらない佐藤の歯がゆい思いが伝わってくる。
佐藤からすれば生きることや死ぬことの意味は社会的な概念で、物理的な物自体の存在や頭の中にある電気信号の存在では追いつかない、第三の世界の存在なのだ。死後の世界や時間をどう考えるかという大きな社会的な枠組みがあり、科学というのはその中の一部の枠組み。その中に物理学という枠があって、量子宇宙で扱う時間はさらにその中の小さな点のようなもの。時間とは何かと言ってもこれだけの違いがある。
量子力学は数式を使って可逆可能な時間を操る世界であり、具体性のある世界とは大いにかけ離れているのだ。我々が存在するのは時空が基盤にあるからと考えるのが一般人だが、一般相対論で時空も粒子や電磁場と同じように力学の数理原理で扱えるようになった。絶対的と思っていたものが一つの対象になった。宇宙の大原則であると思っていたものが一つのローカルなものになったのだ。
それは当然そうなのだが、なかなか納得いかない艸場の立場もわかるし、説明する佐藤の熱意も伝わってくる。佐藤の広い視野は社会的な大きな時間も含んで多様な話題が展開されるので、素人向けの物理学入門書では得られないドキュメントとしての面白さがあった。加えて文庫巻末のサンキュータツオ氏の解説が秀逸。