漫画家まどの一哉ブログ
「海うそ」 梨木香歩
「海うそ」
梨木香歩 作
(岩波現代文庫)
南九州の遅島で人文地理学研究者が見た大自然と修験道の姿。今や失われてしまった世界をひたすら歩く。
舞台となった遅島が架空の島であることを全く感じさせない。同じ山中を行くにしても、以前読んだ「冬虫夏草」にあった楽しさとは違う熾烈なリアリズムがあった。わたしが自然の中の暮らしに遠いせいか、うかつにもこの話が戦前が舞台であることに気づかなかった。島に伝わる過去の信仰生活や廃仏毀釈の爪跡などを追っているのでなおさらだ。
最終章で50年後の現代社会が出てくるが、山は削られ新しい道路が通り、リゾート地として開発されるようすが対比される。この残念な結果はいかにも現代資本主義の浅はかさそのままだが、このラストがなくてもよい。また婚約者との悲しい思い出もなくてもよい。架空の民俗学文献として充分楽しめる。
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