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漫画家まどの一哉ブログ

   
「父と子」 ツルゲーネフ 

「父と子」
ツルゲーネフ 作
(新潮文庫・工藤精一郎 訳)

伝統的な習俗・文化・芸術までも全否定して生きるニヒリスト青年バザーロフ。他を顧みない生き方は周囲の大人たちと多くの軋轢を生む。だがその実彼も屈折した恋愛感情を抱えた悩める若者だった。

ニヒリスト青年バザーロフに心酔する純真な青年アルカージイ。彼の家に来たバザーロフと父親・伯父世代との断絶。タイトル通りの父と子のテーマがこの家の毎日を中心に描かれる。加えて後半バザーロフ本人の実家に戻ると、彼の両親は息子を溺愛していて腫れ物に触るような扱いだ。同じ父と子と言っても大いに違う。

ところが物語の大半は実は父と子ではなく、孤高を貫く聡明な女性アンナ・セルゲーエヴナへのバザーロフの屈折した恋心に終始するのだ。それ見たことか、いくら自然科学のみを信奉するニヒリストを気取っていても人間は感情の動物。ましてや恋情ばかりはどうすることもできまい。

そんなわけでこの作品は父と子ばかりでなく、登場するさまざまな人物の愛と反発を見事に描いた人間ドラマである。当時のロシアの時代背景、没落する地主階級と解放された農奴、移りゆく政治制度と農村共同体の有様を理解していればさらに色濃く多層的に楽しめる屈指の名作となっている。情景描写はごく僅かだが人物は目の前で見るように生き生きとしていて、素直な文章はわかりやすく誰でも読める。さすが世界文学名作中の名作!

ところで文庫本の表紙が美しくて手にとっていて楽しかった。






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