漫画家まどの一哉ブログ
「オリヴァー・ツイスト」 チャールズ・ディケンズ
「オリヴァー・ツイスト」
チャールズ・ディケンズ 作
(新潮文庫・加賀山卓郎 訳)
孤児として貧窮の中に育ったツイスト少年。犯罪者たちの仲間になりかけるも善意の人々に出会い、悲惨な境遇からの脱出を試みる。二転三転する貴種流離譚。
文庫巻末に掲載されているチェスタトンの解説にもある通り、気鬱で苛立たしく不恰好なメロドラマだ。しかし面白いことは面白く、長編に見合ったストーリー展開がなされていないだけのこと。話は行ったり来たりして二転三転どころか五転六転しなかなか進まない。いよいよ一気呵成にクライマックスかと思いきや、また違う人物が登場して水をさすといった具合で、この繰り返しが歯がゆい感じだ。
そしてこれもチェスタトンが言う通り、主人公ツイストが人格的にたいして成長しない。悪人の只中で生きていればもう少し人間に対してしたたかな生き方を学習して行ってもよさそうだが、あまりにピュアな少年でありすぎて動かしようがないみたいだ。そのせいかラスト近くは全く登場せず、ほぼ悪人たちのたくらみと破綻の物語となる。たしかにこいつらの個性豊かな悪人ぶりがこの作品の魅力でもある。
まあたいがい善人で身分も高く裕福である人々はそんなに面白いものではなく、ドラマは悪人の活躍によって面白くなるものだろう。かれらの悲惨な最後もディケンズのオリジナルかどうかは知らないが定番と言えば定番で、そのせいで安心して楽しめる。
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