漫画家まどの一哉ブログ
「フォンタマーラ」 シローネ
「フォンタマーラ」
シローネ 作
(光文社古典新訳文庫・齋藤ゆかり 訳)
じわじわとファシズムへ進むイタリア。貧しい山村フォンタマーラの住人たちは資本家にまんまと水利権を奪われ、自作の作物を高く買わされ、法律も改ざんされて抵抗もできない。果たして残された手段は?
ものを知らないとは恐ろしいことで、素朴なままの村人は白紙委任状にこぞって署名してしまう。町からやってくる人間の喋ることはわからない。紙に書いてあることでまた新たに税金を取られるのでなければよしと考える。
結果、畑に必要な用水のほとんどを資本家の土地へ奪われるわけだが、用水を四分の三ずつ分け合うと言う理屈に納得してしまう。計算もできないようではとてもじゃないが資本家に太刀打ちできない。
知らない間に進んでいくファシズムと一体となった資本家の横暴。追い詰められていく村人の様子は、どの国の人間にとっても他人事でなく、事態に納得しながら読める。常に抵抗の先頭に立ってきた主人公格の男べラルドが、いざという時に私的人生の幸福のみに邁進して、挙句の果てに絶望するドラマの面白さ。あからさまな風刺小説ではなくカリカチュアでもない。しっかりした社会派文学の佳作だ。
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