漫画家まどの一哉ブログ
「海に住む少女」 シュペルヴィエル
「海に住む少女」
シュペルヴィエル 作
(光文社古典新訳文庫・永田千奈 訳)
孤独と悲しみに彩られた大人のためのメルヘン。
詩人の書いた短編小説。とはいっても彫琢された美文ではなく童話のようなやさしさ溢れる文体。社会や人生に対するアイロニーはなく、人間の悪意や寂しさがそのままに描かれる。空想的設定は自由すぎて短編小説の約束も意に介さない、まさにこれも散文詩なのかもしれない。
「飼葉桶を囲む牛とロバ」:幼児イエスに寄り添うマリアとヨセフ。そして見守る牛とロバ。ロバはやや自惚れた自信家だが、牛はほんとうに純朴な優しい自己犠牲的な性格。イエスを驚かせまいとひたすら身を引きながら、それでもかぎりを尽くしてイエスを守る。牛のあまりに悲しい生き方に涙。
「ラニ」:断食に耐え抜き部族長となったにもかかわらず、顔にひどい火傷を負ってしまった男ラニ。恋人や村人に避けられながらふしぎな力を身につけ、孤独と悪意の只中で生きる人間となる。これも復讐のようなものか。
「足跡と沼」:小間物の行商人は農場主の案内で納屋に商品を広げて商売を始めるが、不機嫌な農場主によって殺されてしまった。犯罪の証拠は農場主によってひとつひとつ隠滅され、誰にも見られていないはずなのに警察に捕まってしまう。いったい誰が犯罪を見ていたのか?これこそが詩だ。
PR