漫画家まどの一哉ブログ
「キャラメル工場から」 佐多稲子
「キャラメル工場から」
佐多稲子 作
(ちくま文庫)
戦前から戦後、長き昭和の時代を休みなく描き続けた短編の名手、佐多稲子の佳作16編。
あいだに戦争を挟む激動の時代であることもさりながら、少女時代からの労働、早婚、離婚、労働運動、戦地体験など、激変する人生が多彩な作品たちを生み出している。実体験をもとに忠実に書き起こされたものでも、けしてルポルタージュではなく小説としての名品の味わいがある。あくまで社会の中の自分や人間たちを見ている社会派小説。とくに女性ならではの労働・子育て・創作活動・社会運動の現場がありありと描かれて興味深い。
「女作者」:一世を風靡した女性作家は上海で一人変わらずに派手な生活を続けている。そのプライド高き生き様を見る。田村俊子がモデル。
「虚偽」:戦争反対ながらも作家による戦地ルポに参加し、結局戦争協力者になってしまう自己欺瞞を省みる。
「かげ」:料亭できびきびと働き常連客にも好評な女性。30歳になるも良縁を断る。彼女がかかえる影の正体とは…。
「疵あと」:労働運動時代に知り合っていた女性。夫を亡くしたあと子供達を育てるため故郷銀座を離れ、信州上田で暮らしていたが、彼女はかつて警察から性的拷問を受けていた。
他にも戦時体制になだれ込んでいく市井の人々、特にカフェや旅館で働く女性たちの怒りや悲しみをとらえた秀作が胸を打つ。
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