漫画家まどの一哉ブログ
「同調者」 モラヴィア
「同調者」
モラヴィア 作
(光文社古典新訳文庫・関口英子 訳)
少年時より動物虐待や武器・銃器への執着など異常な衝動を覚えていた主人公。殺人経験を経て成人し、以降はごく普通の一般人として生きることを目指すが‥。スパイ小説でもあるスリリングな長編。
銃に憧れる主人公少年の異常で残酷な性癖。そして少年愛を捨てられない元修道僧の男との出会いと殺人。この長い長いプロローグの破滅的な面白さ。どうなることかと期待して第一部へ進むと、成人した主人公は公務員として働きながらひたすら平凡で罪のない一般人として生きることを目指しており、なるほどそれだからタイトルが「同調者」なのかと納得する。
こうなってはプロローグでの興奮はどこへやら。がっくりするほどつまらない。ところが流石に作者はこちらが飽きそうになったところでちゃんと事件を用意してくれるのだ。主人公の職業はファシスト政権の諜報員であり、密かに暗殺活動の手配が命じられる。話は凡庸で馬鹿な妻とのハネムーンとともに進行する。
反ファシズム学者や同性愛婦人など様々な人物が登場するが、肝心の主人公は至って冷静な平均人である。最初の異常な人格設定はどうなったのだろう。また彼は妻のような凡人にも過酷で劇的な人生体験があることに思い至らない。そしてうわべだけ凡人の生活を続けていても、ほんとうの恋情は妻以外の女性に対して容赦無く燃え上がり平凡な生活など破壊してしまいそうになる。
それでも彼の人生は平穏なまま進行し、ファシズム政権の敗北と共に政府側の役人だった人生も終わるのである。伏線を全て回収する形でオチをつけてあるのがやや無理矢理な気がするが、ドラマとしては面白かった。
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