漫画家まどの一哉ブログ
「ハツカネズミと人間」 スタインベック
「ハツカネズミと人間」
スタインベック 作
(新潮文庫・大浦暁生 訳)
農場を渡り歩く労働者の二人組。いつかは小さな自分達の農場を手に入れることを夢見ているが、現実は容赦ない過酷なものだった。
チビで要領のいいジョージと巨漢で怪力だが頭は悪く少年の心を持つレニー。コンビの設定としては基本的なものだが、怪力レニーの人物造形は秀逸で、レニーによって物語が動いてゆく。
なにせ彼は頭が悪いだけでなく人格は子供のままで、小さな動物の毛並みを撫でていることに無上の喜びを見出す。心は優しいが女に目を奪われるのは本能のまま。相棒のジョージが指導しないと社会で生きてゆくことができない。これで事件が起こらないはずがない。
文庫解説によるとこの作品は戯曲的小説と言われるそうだが、この種のセリフと外面描写だけで進行する映画のような作風は自分の大いに気にいるところ。心情の解説や内面描写は少なく人物の行動本位であって飽きさせない。かといってエンターテイメント的なストーリー性に頼っているわけではない。あくまで人物それぞれの人間性が豊かに描かれていて胸を打つ。老犬を手放せず自身も老いて不安な掃除夫。黒人ゆえ仲間扱いされず不服をためる怜悧な馬番。男たちに色目を使いまくる農場主の息子の妻。様々な人間をしっかり捉えて描くスタインベックの手腕を堪能することができる。
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