漫画家まどの一哉ブログ
「死霊解脱物語聞書」
読書
「死霊解脱物語聞書」
累(かさね)といえば、江戸時代の幽霊物語の代表選手の一人であるが、この聞書では累(かさね)の霊は人間世界にその姿を現しておどろかすのではなく、いたいけな農家の少女に取り憑くのである。その憑依のありさまが実にリアルで、やはりこれはノンフィクションだなと思う。
あるときは少女は累(かさね)に成りきって地獄の様子を語り、あるときは自意識は保ったまま、人には見えないすぐ傍らの累(かさね)の挙動を解説する。これは現代の我々から見ると多重人格などの精神障害の一種ではないかと疑われるが、除霊してもなんどもなんども取り付くところなど、病状の悪化ではなかろうか。
ところでこの話で大活躍するのは祐天上人という浄土宗の僧侶で、念仏の効力をもってして累(かさね)を解脱に導くべく苦闘するが、後に浄土宗の高僧となった人だけあって村人に説く仏教理論が精密である。この浄土宗の念仏思想がこの聞書の本旨らしい。それでもこの祐天上人の知恵と行動力はまさにヒーローであり、悪霊に取り憑かれて暴れ苦しむ少女や、大慌ての村人の対策などがきちんと描かれていて、物語としてたいへんおもしろく読めてしまうのである。
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