漫画家まどの一哉ブログ
読書
「神を見た犬」 ブッツァーティ 作
現代イタリアの作家。短編小説の醍醐味ここにあり。
「七階」:その病院は7階の患者が一番病状が軽く、階を下りるに従って重篤となり、1階の患者たちはただ死を待つばかりであった。すぐにでも退院出来るくらいの症状で7階に入院したはずの主人公は、病院の都合やスタッフの手違いなどで、だんだんと下の階に移動させられていく。実は病状は深刻なのであろうか?不安がつのる。
「神を見た犬」:廃墟となった礼拝堂に一匹の犬と暮らす修道士。彼が死を迎える数日前に、不思議な大いなる白光が天から降り注いだ。それは神が尋ねてきたとの村中の噂だった。やがて修道士が死に、修道士とともに神を見たはずの犬だけが村に残る。神を見た犬にじっとに見つめられた村人たちは、けっして悪事を働けないのであった。
「護送大隊襲撃」:入獄中に病を患い、ようやく出獄してきた山賊のボスに昔日の面影はなかった。山に陣取るかつての仲間達も、もう彼を迎え入れることはできない。ひとり山中の仮小屋に暮らす彼のもとに若い山賊志望者が弟子入りする。若者の前で無謀とも思える護送大隊襲撃を企てた彼が最後に見たものは、今は亡きかつての仲間達だった。
いかにも短編小説といった味わいがある。それも手を替え品を替えの不思議な話ばかり。
たとえばかつての米ソ冷戦を題材にした、秘密兵器説得ガスの話など、星新一を彷彿させる愉快さだ。ワケのわからない個人的な内情を、突然やってきて途切れることなく喋り続け、カネを渡すまで帰らない男の話も爆笑。既に敗色濃厚なドイツ軍の最終兵器としての巨大戦艦「死」に乗り込んだ隊員たちの最後は悲しい。面白かったという感想しか言えないが、この種の短編は他に多言はいらないということで…。