漫画家まどの一哉ブログ
「樹影譚」 丸谷才一
「樹影譚」
丸谷才一 作
(文春文庫)
手を替え品を替え書かれた短編3作。風味馥郁たる名品を味わう楽しさ。
「樹影譚」:樹自体ではなく壁に映った樹の影の美しさにひかれるのは何故か?その感覚の由来をめぐる。作者はそれを短編小説に仕立て上げようと目論むが、ナボコフの同様の作品に思い当たり、調べてみるが判然としない。その過程を面白く読んだところで、さて仕立て上げた短編小説が始まる。
主人公はやはり小説家であり、その短編小説の中でも壁に映った樹の影に魅せられる由来をあれこれ思い巡らすという二重構造で、箱の中に箱があるようなカラクリだ。
最後には愛読者である老婆が登場し、幼き作者が樹の影にとりつかれた所以を明かすが、これも狂人のたわごとという実に手の込んだ傑作。
「夢を買います」:夜の店で働いているらしい女性が友人へ語りかける態で書かれた、最初から最後まで彼女の口調で終始する短編。客である宗教学者のしつこさがおかしい。砕けた口調でこの面白さはやはり手練れならでは。
「鈍感な青年」:図書館で知り合った初心な二人が佃島を散歩したのち、初めての体験に至る様子。会話がどれも最小限の短さで、軽快なリズムで読める仕上がり。
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