漫画家まどの一哉ブログ
「ウィステリアと三人の女たち」 川上未映子
「ウィステリアと三人の女たち」
川上未映子 作
(新潮文庫)
平凡な日常の中にもちょっとした異変が潜んでいて、ある日ふと顔を出す。短編4作。
文章が美しいだけでなく心躍るリズムがあって、読むことが楽しい。選ばれる言葉は上品だけど大胆。つねに動きを孕んでいて止まろうとしないため、呑まれるように読み進んでしまった。
「ウィステリアと三人の女たち」:夫の留守中に解体途中の旧家に深夜忍び込んだ主婦の話が、いつのまにやらウィステリアと最愛のイギリス人女性の悲しい思い出に。ここまで違う内容を半分づつ繋げた短編も珍しい。妄想はうつろな日常から飛躍して現実を解体する。
「彼女と彼女の記憶について」:女優となって謂わば出世した彼女が、ふと気まぐれに故郷の中学校の同窓会に出席してみると…。彼女がクラスメイトのことを全く覚えていないのも極端だが、自分が裸にして弄んだ友人のことさえ忘れている。そして繊細な人間も無神経な人間もどこでも同じだけいる。彼女を含めて。
「シャンデリア」:終日デパートで過ごすなんて物好きな人間だと思ったが、彼女は急な成金。またほんとうの金持ちの老婦人も登場。金はあるところにはある。彼女は突然大金を持ったことを受け入れ難く蕩尽しているが、これは貧しい育ちの庶民にはありがちかもしれない。
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