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漫画家まどの一哉ブログ

   
「遮光」 中村文則 

「遮光」
中村文則 作
(新潮文庫)

恋人の死を周囲に隠しながら生きる、言動のすべてが他者の目を意識した虚言で占められる青年。病的な日常を描いた恐ろしい小説。

幼き頃に両親を亡くし、以後周囲の人間に嫌われないよう他人の顔色ばかり見て生きてきた男。自分の言動がすべてそれらしい演技であることを、常に自分でも意識している。しかし確固とした主体的意識が内奥にあるわけではなく、心の中心は空洞でほんとうの自分というものは終ぞ無い。

読みだすとわかるがこの青年の人格は明らかに病的で、それが一人称で書かれているため、他人事で無い空恐ろしさがひしひしと伝わる。虚言癖とはそんなものかもしれないが、罪の無い虚言を超えた暴力や奇行が連続して、読んでいて心苦しい。選んだのを後悔したがそれも遅く、短いものなので読んでしまったが、これも文学の力だ。

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