漫画家まどの一哉ブログ
「海」 小川洋子
「海」
小川洋子 作
(新潮文庫)
どこか幻想的で奇妙な風味溢れる短編集。
日常からの離れ方がさりげなくて、意図的にこしらえた設定であってもわざとらしくなく、独特の香りを楽しみながら読める。
「バタフライ和文タイプ事務所」:医学部の院生が書いた論文を5人のタイピストがひたすら打ち込んでいる不思議な事務所。タイトルである事務所名が既に秀逸である。印字に欠けが発生する漢字が糜爛(びらん)の糜や、睾丸(こうがん)の睾など、官能文学に寄り添って書かれたおかしさと幻想味がないまぜとなった傑作。もし私が現代幻想文学短編集の編者なら間違いなく入れる!
「ひよこトラック」:ケバい獄彩色に塗られた縁日で売られるひよこを満載したトラックが、定期的に通り過ぎていく。という情景そのものが夢の中にいるようだが、それを見ているのがホテルのドアマンと、彼の下宿先の絶対しゃべらない少女。彼女が蒐集しているのが昆虫や動物の抜け殻という、白日夢の中にいるような小品。
「海」:結婚の挨拶に訪れた彼女の実家で、義理の弟の部屋で寝ることになる。この弟が自作したメイキンリンという楽器は果たしてどんな音色を奏でるのか。落ち着かなさと、はっきりしない妙な具合が味わえる。
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