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「戦後フランス思想」 伊藤直

「戦後フランス思想」
伊藤直 著
(中公新書)

サルトル・カミュ・ボーヴォワール・メルロ=ポンティ・バタイユなど冷戦の時代をリードしたフランス思想家5人の足跡をふりかえる。

実存は本質に先立つサルトルの哲学を紹介されるとなんとも懐かしい気がするが、自分などはよくわかってないにもかかわらず実存主義が好きで、実存という自由であいまいな人間味のある概念に親しみを持つ。
ただサルトルと論争を巻き起こしたカミュの不条理の哲学、不可避である死を決定づけられながらも、抗いながら生きるありかたにも大いに共感を持つ。

ところが自分はカミュの文章が性に合わないらしく、短いものでも挫折したものがいくつかある。ひきかえサルトルの小説作品は絶品と言えるほどのみずみずしさと面白さ。アンガージュマン(政治的社会参加)は結構だが、小説だけ書いていてもらっても充分かまわない。おそらくしだいにマルクス主義を擁護・接近するのも、どことなく希望的な甘さがあって、小説の面白さと繋がっている気がする。

メルロ=ポンティは若い頃「眼と精神」だけ読んだがさっぱり理解できなかった。ここで「知覚の現象学」を解説されるとまったく感心するばかりだ。そしてボーヴォワールこそが今現在も最も必要とされる現役の思想であろう。私の手に余るバタイユも小説は破壊的に面白い。

著者が紹介書・案内書というこの著作は平易で読みやすく、しかも退屈しない筆致でスラスラと読んでしまった。





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