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「義とされた罪人の手記と告白」 ジェイムズ・ホッグ

「義とされた罪人の手記と告白」
ジェイムズ・ホッグ 作
(白水Uブックス・髙橋和久 訳)

自分を神に選ばれた者と信ずる頑なな信徒ロバート。いつのまにか不思議な力を持つ友人の意のままになり悲劇へと突き進んでいく。信仰の欺瞞と悪魔の企み。世界怪奇幻想文学の傑作。

熱心なキリスト信者である母の影響を受けて、狂信的とも言える信仰を振りかざす青年ロバート。母とは別に平凡な父親の元で育った兄ジョージを堕落した精神の代表であるかの如く執拗に批判し付け回す。一見ロバートのみが世間から仲間はずれにされても正義を貫く聖人のように見える。
しかしこの主人公ロバートが実は極めて臆病で卑劣な人間であり、だからこそ自分が神に約束された人間であると信じることで自分守っているのだ。なにせ彼の奉じる「道徳律廃棄論」では神に選ばれた人間は現世で徳を積む必要はなく、いかなる悪事を働いても末は天国が約束されているのだから。
この自己欺瞞的な生き方こそが悪魔に取り込まれるもってこいの条件であり、悪魔は友人のふりをして近づき、しだいに彼を連続殺人者へと仕立て上げてゆく。

悲しいかな人間とはなんと弱いものだろう。悪魔の振る舞いを通じて容赦無く展開される悲劇に息を呑む思い。悪魔の技は確かに不思議ではあるが、描写はあくまで現実的あり詩的でもシュルレアリスムでもなく地についた感覚で、サスペンスを読むように楽しめる。肩の凝らない通俗性がある。
全体の構造は単純と言えばそうだが、悪魔に操られて破滅へと突き進んでいく様子があまりに面白く(恐ろしく)、間違いなく怪奇幻想文学の埋もれた傑作である。もし世界怪奇長編小説アンソロジーがあるのなら外せない名品であると思う。

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