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「小説作法」 小島信夫

「小説作法」
小島信夫 著
(中公文庫)

小説を書くとはどういうことか。古今の作家と自身の創作の秘密をめぐってその謎を解き明かすエッセイ集。

小島信夫はなんとも不思議な作家で、いかにもこういうことを書いたというわかりやすいイメージを得られない。本書の融通無碍な行方知らずの文体もなにやら細い脇道を彷徨うようでどこへ連れて行かれるのやらわからない。だがその謎は小説の面白さを解き明かしていく過程でしだいに明らかにされる。

脇道へ逸れること、つぎつぎと話が脱線していくことを厭わず、むしろそれを優先して拾っていく。そこをあえて大切にする。トークや講演などを読んでいると、けっして理路整然としていないわけではないが、非常に細かい頭の中の揺らぎが手に取るようにわかり、しかもそれが面白いのだからこれは作家の資質ならではなのかもしれない。

カフカの作品ではその時代の精神構造を具体化するような、いかにもほんとうに生きているような人物は造形されず、それはKなる象徴的な人物によって代表される。この言わば抽象的な表現にもかかわらず、時代精神や人間性はひしひしと伝わってくる。それはやはりカフカが批評家ではなく小説家であるせいで、イメージから出発してそのまま論理を介在させずに展開してゆくからこそ成立するのだ。それでなくてはわれわれは楽しむことはできない。

この辺りの秘密は小島信夫作品が何を書いたのかはわからないがめっぽう面白いことのヒントになるかもしれない。小島はけっして抽象的ではなく、むしろ自然主義的なリアリズムを大切にするが、読んでいるとこれはほんとうにリアリズムなのかケムに巻かれたようなフワフワした印象を持つ。

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