漫画家まどの一哉ブログ
「夜鳥(よどり)」 モーリス・ルヴェル
「夜鳥(よどり)」
モーリス・ルヴェル 作
(創元推理文庫)
怪奇・残酷のみならず、心に響く悲話までも。わかりやすく読みやすい。「新青年」誌で人気を博した稀代の短編作家。
ポーの衣鉢を継ぐ、あるいはそれをも凌ぐ怪奇幻想作家という評価を聞いていたが、読み出してみるとポーの持つ耽美幻想性はまるで無く、簡単なショートストーリーのようなものなのでやや落胆した。
ところが読み進めていくとこれが実に多彩で、どちらかというと怪奇・犯罪ものは少なく、人情の機微をつくようなところが基本になっている。なにより着想が豊か、かといって奇想ではない。一つ読むたびに次が楽しみになる。
文庫底本は昭和3年の田中早苗訳だが、たしかに巻末の訳者解説を読むといかにも古風な文体。ところが本編にはそれがまるで感じられない。これも名訳というものか。またこの文庫本には甲賀三郎・江戸川乱歩・夢野久作の解説も掲載されていて、私は「新青年」周辺を読む趣味はないが、なるほどその通りと感じた。
PR