漫画家まどの一哉ブログ
「虫喰仙次」 色川武大
「虫喰仙次」
色川武大
(小学館P+D BOOKS)
親代わりとして兄弟たちの成長を見守ったため晩婚であった著者の父。幼き頃の著者と父親の思い出を中心に縁者の人々を描く短編集。
この短編連作の舞台である著者の実家は東京牛込であり、時代は1930年代である。当然親は兄弟が多く、家には兄弟以外の子も住んでいる。海軍勤めの父親や、あまり歳の違わない破滅型の伯父、観音信仰の祖母の話が記憶や調査をもとに綴られてゆく。様々な人間の生きざまが生々しく蘇って読まされてしまう。
とはいっても読み進むにつれ、何故だかだんだん気持ちが暗くなってきた。特別劇的なわけでもないのだが、それだけにどうしようもない意図しない陰湿さを感じてしまう。おそらくこの暗さは作者の本質であり作者の見る人生の本質でもあるのだろう。
表題作「虫喰仙次」はギャンブラーの著者が競輪場で懇意になった編集者の話。社員も雑誌も使い捨ての娯楽雑誌出版社で生き残って行く個性的な男の世渡りを追う。まあ他人事といえばそうだが、こうやって知り合った人間の人生を連作しても面白いかもしれない。
色川武大は昔「狂人日記」を読んで絶望的なショックを受けたので信頼しているが、やはりどこかしら陰鬱なトーンを感じた。
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