漫画家まどの一哉ブログ
「夜と灯りと」 クレメンス・マイヤー
「夜と灯りと」
クレメンス・マイヤー 作
(新潮クレストブックス・杵渕博樹 訳)
統一後の旧東ドイツ。ややアウトローな世界で迷いながら生きる男たち。そしてさまざまな職業の人々。短編集。
解説によると作者はドイツ文壇には珍しくアカデミズムとは無縁のブルーカラー出身。いわゆる不良少年で少年拘置所体験もあり、様々な肉体労働を経て小説家になった人。そのせいか各短編の主人公の男は本格的なマフィアではないもののコカインなど薬物は使うし、人生そのものにもなんとなく投げやりなところがある。
そこになんとなく格好良さがあって、ケンカしたり女を追いかけて旅をしているとそれだけで絵になる。これは実際そんなものなんだろうが、やや通俗的な印象があって物足りない。漫画家のつげ忠男作品に登場するアウトローたちもそういう格好良さがあるので、それと同じかもしれない。
そんな中ではアウトローではない人間が登場する後半の3編が良かった。●就職したばかりの巨大倉庫でフォークリフトを操りながら働く男の、ほのかな恋やリーダーへの親愛を描いた「通路にて」●平和な家庭生活を捨ててある娼婦を追いけけ回すことなってしまった男「君の髪はきれいだ」●過疎化した農村に残り、老いてゆく動物たちと暮らす老人「老人が動物たちを葬る」この3編は気取らない素直な味わいを感じた。
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