漫画家まどの一哉ブログ
「ピエールとリュース」 ロマン・ロラン
「ピエールとリュース」
ロマン・ロラン 作
(みすず書房・宮本正清 訳)
第一次大戦下のパリ。ドイツ軍の侵攻が迫る中、偶然出会った若き二人の絶望的な純愛を描く。
侵略を受けるフランスとしては避けることができない戦争への参加と若者たち。主人公の青年、中産階級出身のピエールもまもなく応召しなければならない運命である。
拙い模倣画を売って糧とするリュースは母親と二人暮らし。つねに目の前の生活に追われている彼女はピエールに比べてはるかに現実的な女性である。リュースに出会ってピエールは初めて生活費を稼ぐリアリズムを知る。
ピエールは本来なら中産階級の青年らしく、戦争へ突き進む国の政策やその他政治思想について侃侃諤諤の議論を仲間と繰り広げるところ。しかしリュースと出会って以来二人の時間の尊さに目覚め、緊迫する情勢をよそに自分たち以外のいっさいを顧みない極めて純粋な恋愛に日々を過ごすことになる。
この緊迫する社会情勢との対照性が作品を貫く主題であり、見えない未来のことは考えない今この瞬間こそが、逃してはならない大切な時間である。戦時下であるからこそ存在した絶望的リアリズムだと言えよう。
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