漫画家まどの一哉ブログ
「埋火」(うずみび)
読書
「埋火」(うずみび) 立原正秋 作
再読。立原正秋といえばかつて自分が安部慎一に会ったときに、立原作品を漫画化する企画を聞いた。まことに短編とは風味だというアベシンに通じる味わいがある。しかし内容が男女の性愛にしぼられると、個人的には興味が薄いので読んでいてどうでもいい気になってしまう。中間小説という分野が今あるのかどうかわからないが、いかにも中間小説らしく思える。それはたとえば女が着物を着ている。旅に出る。旅館で男と過ごす。といった伝統的な設定があるとそれだけである種の雰囲気といったものを感じてしまい、そうなると性愛以外に書くことないんじゃないかと思ってしまう。
「山居記」:わずか50代にして一線を退き、公園の管理・清掃人として小屋に暮らす男。新しい恋愛も別れた妻との再会も、どちらも深入りせずに世捨人として生きる様が心に残った。つげ義春的なスタンスだ。
「水仙」:これも知識階級を去りタクシー運転手として生きて癌で死んでしまった友人の、ある種世捨人的な生き方を省みる話。かといってその心理に切り込むことはなく、あくまで日常の中での風味を味わうもの。
「吾亦紅」:肋骨を折ってしばらく入院した時の日々を描く。こういったフツーのことを書いて一編の作品に仕上げるのに、季節とともにある動植物の観察はかかせないアイテムだ。吾亦紅(われもこう)。
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